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第31章 ラフロイグ



 お店のお手洗いは、男女共通の個室ひとつしかなかった。
長々と占領するわけにはいかない。
私は気合いで心を落ち着けて、お手洗いを出た。



 お客さんは一組帰ったようだった。
相馬の待つテーブルに戻ると、相馬はいつの間にか、違うグラスを持っていた。
背丈がビールグラスの三分の一ぐらいしかなくて、大きくて透明な氷がその大部分を占めている。
底のほうを薄く満たす液体は琥珀色。



「ごめん、追加頼んだ」

 相馬が「霧野も」と私にメニューを差し出す。

「私はいいよ。まだある」

 今日はこれをゆっくり飲んで終わるかもしれない。バーの経営的には申し訳ないけれど。



「それ、何?」

「ラフロ……ウイスキーだよ。一口飲む?」

「飲む」



 あ、これ、世に言う間接――いやいや、相馬はぜったいそんなの気にしないって。
私も別に、男子混じりでごはん摘んだりとか抵抗ないし。
今だけわざわざ意識することでも。


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