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unbalance
第32章 記憶
いつの間にか相馬が、私の側のベンチに来て、私の肩を抱き寄せた。
「ごめんな、何度も泣かせて」
……ほんとだよ。
この一週間だけで、私はいったい何度泣いただろう。
泣くなんて、大人になってからは映画を見たときぐらいだったのに。
まるで自分じゃないみたいに、勝手に涙がこぼれてきてコントロールが効かない。
わがまま言いたくないのに。
面倒くさい女になんてなりたくないのに。
「ご、ごめ、なさ、」
「ゆっくりでいいから」
相馬が私の肩をぽんぽんと叩き、もう片方の手で頭を撫でる。
まるで子どもをあやすみたいに。
不甲斐ないのに、情けないのに、とめたいはずの涙が奥から奥からあふれてきて、反比例するように、徐々に心が凪いでいく。
だんだんと、私の呼吸の間隔が元に戻ってきたことを察したのだろう。
相馬が私を撫でる手を止めないまま、静かに言った。
「その……ゆっくりでいいから……いつの話か、教えてくれる? 思い出したいから」
そんなに優しく言わないでよ。
わかってるのに。私が独りで勝手に被害者意識でいるだけなんて。
わかっているけれど――もうここまで来たら、話さないという道はなかった。
グラスを手繰り寄せて、喉の渇きを潤す。
「私が……こっちのチームに移動してきてはじめての飲み会で」
痛い女だと思うなら思え。
とはいえ、説明しながら、虚しくなってくる。
相馬は黙って聞いていた。