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unbalance
第34章 ロングアイランドアイスティー

そのまま、グラスを握った私の両手を上から包む。
今なら確信をもってわかる。冷たいグラスを握っていたから、だけではない、冷たい手。
握るまでいかず、ただそっと添えられたその手は強張っていて、相馬の緊張が私に伝わる。
「さっきも言ったけど、俺は一回霧野にはっきり振られてる」
う、……それを言われると、
「あと、二、三回は泣かれてる」
「そ、それは」
「怪我もさせてるし」
その苦々しい顔は確かに演技ではなかった。
「……怪我なんて大層なものじゃ……」
相馬の左手が僅かに動き、触れるか触れないかぐらい微かな力加減で、私の右手の甲を撫でる。
私が右手をグラスから離すと、相馬が、見ていい? と小さく聞いた。
両手を私の右手に添えて、カーディガンをゆっくり捲る。
私はただじっとしていた。
もうほとんど目に留まらないほど薄くなったあざの名残を、そのあざをつけた相馬の指が、丁寧になぞる。
あのときと違って怖くない。
手首の内側、皮膚が薄いところに彼が触れる。
敏感になっているのは、たぶんお酒のせい。きゅ、と、関係ないはずの下腹部が締まった感覚がした。
じん、と体の芯が熱くなる。
「ん……そ、相馬、……っ」

