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第34章 ロングアイランドアイスティー



「テンション、ねえ」

 相馬がすっと目を逸らし、口元を隠した。

「テンションであんな格好されたら、たまったもんじゃないんだけど」

「か、格好……?」



 スウェット姿が? それは、相馬が出してきたんじゃ、

「暴力的なエロさだった。裸にTシャツ一枚」

 しばらく考えて――ようやく追いついた。

 追いついた瞬間、盛大にむせた。


「おいおい」



 私は顔を背けながら、気管に入ったアルコールを空咳で追い出す。
ただの水よりちょっと痛い。
ウイスキーより度数は低いのだろうけど、身構えていなかった分、被害は大きかった。

呼吸もぎりぎりになりながら、涙目で必死に咳が収まるのを待つ。



「大丈夫かよ」

 返事もできずに、でも、でも――私でどきどきしてくれるなら、ちょっと嬉しいかも、なんて。

 相馬にばかなんて言ってらんないな、私。



 あの日――あの台風の夜、急いでいて、なんにも考えずに下着まで洗濯してしまったのは本当。
ドライヤーが見つからなくて焦ったのも本当。
でもだからといって、あんなガードの薄い格好で出ていったのは、私のこと女として見ない相馬に、半分当てつけのつもりだった。
相馬はしっかり動揺してくれて、怒ってくれて、でも、はじめからこういうことなんだったら相馬には申し訳ないことをしたかもしれない。



 結果的に――何事もなく朝を迎えることには、ならなかった。
なるはずがなかった。
私が相馬を煽ったのだから。



 うん、相馬は優しかったよ、ずっと。相馬の家にはじめてあがったあの日から。

 自分もびしょびしょになりながら、片手で私を抱き寄せて、片手で傘を抑え込んで、もう少しだから頑張れと私の心配ばかりした。


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