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第34章 ロングアイランドアイスティー



「言っとくけど」

 相馬が私を睨む。

「はじめから襲うつもりで家呼んだわけじゃないからな」



「ほ……ほんとにぃー?」

 おおげさに、疑わしげな目を向けてみる。誤魔化しの水を口に含みながら。




「そりゃ、まあ……期待しなかったと言えば嘘になるけど……」

 相馬はきょろきょろと目を泳がせて、

「……でも、手ぇ出すつもりじゃなかったのは本当だよ」

 まあ……あの日、手を出したのはどちらかというと、相馬じゃなくて――



「……へー、優しいじゃん」

「だろ。彼氏にどう?」

「ば……」



 ばか、といつものように流しそうになって、違う、とブレーキをかける。

 冗談じゃないんだ。本気なんだ。相馬に言わせれば――ずっと。



「嫌ならちゃんと逃げて」

 こつん、とテーブルの下で、パンプスの爪先に何かが当たった感触がした。
きっと相馬の革靴。
さっきみたいに体温が伝わるぐらい足を絡めたりはしない。
けれど、確かに彼がそこにいる。



「……嫌じゃないって、言ってるじゃん」

 あんなに人付き合いが上手くて、いつも他人の思いを見透かして、懐に入るのも、言い負かすのも朝飯前な相馬が。
勝手に手に触る癖に、勝手に足を絡める癖に。

 ここまで私の話を聞いたんだから、好きにお持ち帰りすればいいのに、そうしないのは――



「……優しいね」

 私は、その優しさに、応えられるだろうか。

「どうかな。本当に優しかったら、手ぇ出してないと思うけどね」

 相馬の答えは、さっきとは違った。


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