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第35章 コンビニ



 多少遠慮がちなのは知っていたけれど、ある程度はやりたくてやっているのだと思っていた。

仕事が好きで、自ら引き受けているのだと。



人の頼みは断れないのに、自分から人に頼みごとはできなくて、一人で抱えて、

でも、できてしまうから。
一人で残業して何とかしてしまうから。



「霧野」



 霧野がはじめてうちに来た夜、酔った霧野にはじめて本音を聞いて、正直、惚れ直した。
嫌でやっていてなお、あんなに溌剌と働けるものか。

 でも、それと同時に心配にもなった。
こいつはずっとこのままいくのだろうか。
いつか、……壊れてしまうんじゃないか、と。



 テーブルの上に無造作に置いてあった霧野の右手を取る。
温かくて、繊細で、柔らかい。



「彼氏にぐらい、図々しくなってよ」



 霧野が戸惑ったように視線を彷徨わせる。

「頑張ります……」

 頑張るなという話をしているのに。



 明日の朝飯がないから、家に帰る前にコンビニ寄ると言うと、霧野は店出る前にお手洗いに立った。
ロングアイランドアイスティーを飲み干して、お化粧ポーチを持って席を外す。
もう風呂入って寝るだけなのに、何を直そうというのか。



 その隙に、俺はテーブル席から首を伸ばし、マスターを呼んだ。


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