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第1章 残業



「そう言うなよ、一応心配してんだよ」

「それはすみませんね。作り終わったら、資料、相馬に送ろうか?」

「クオリティの心配はしてねぇよ」



 彼が急に、机にバンッと手をついて立ち上がる。
そんなことで私はびくりと反応して、手を止めてしまった。その隙を相馬は逃さなかった。

「帰れなくなるぞ」

 珍しく真剣な顔をした相馬に、私は思わず窓の外を見た。



五階の窓から覗く景色は激しい雨で遮られて、いつもははっきり見えるはずのお向かいのビルが霞んでいた。
大型台風がこの週末を直撃するというニュースは、数日前から巷で話題になっていた。
けれど、私は彼に弱みを見せたくなくて、わざと元気な声を出した。



「明日がピークって言ってたし、大丈夫でしょ」

「早まったってよ」

 いつの間にかスマホを手にしていた相馬が、画面を私に突きつける。
そこには、確かに彼が言ったとおりのことが書いてあった。


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