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第5章 麦酒



 相馬が何か言っている気がして、私は再開していたドライヤーを止めた。

「ごめん、何か言った?」

「酒。何飲む? って」



 その台詞は、ありふれたものかもしれないけれど、私には珍しい響きだった。



「……私、お酒飲みそうに見える?」

「あ、飲まない人? 俺は飲むけど。一人で飲むのもなんだかなと思って」



 いや……いや、確かに家では滅多に飲まないけれど。



「めっちゃ買っちゃったけど」

「……ビールある?」



 どきどきしながら、そう言ってみる。
ビールとか飲むんだ、へえ、意外、という言葉を予想しながら。



「おっけー。あ、まだ冷やしといたほうがいい?」

「ううん、出していい。髪乾いた」



 ――霧野サン、お酒とか飲むの? 無理しなくていいよ、付き合いで飲む時代でもないし。

 それが、私の飲み会開始のテンプレートだった。



そんなイメージがついている原因は、私にもある。
仕事の飲み会なんて酔えもせず気を遣うだけだから、いつからか、最初の一杯以外はソフドリばかり飲んでいるようになってしまった。

けれど、別にお酒が嫌いなわけではないし、相手から飲まないんでしょと先に言われるのは――わがままだけれど、ちょっとムッとしたりもするのだ。


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