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第6章 睡魔



「……霧野」

 帰らなきゃ、これ以上ご迷惑をお掛けするわけには――タクシー……スマホどこだっけ……。
――はっと意識が戻って、それでまた意識が飛んでいたことに気づく。

いけないいけない。何しようとしてたんだっけ。

そうだ、服――服が乾いてなければ帰らなくて済むなあ……一生乾かなきゃいいのに……一生台風がここにいればいいのに――。



「……霧野、聞いてる?」

「……ん……」

「聞いてる?」

「聞いてる……」

「じゃあ、俺今なんて言ったか言って」

「…………」

 答えられない。
相馬の声が遠い。
瞼が重い。



 雨音と風の音が遠くで鳴っていた。
外は相当荒れているに違いない。
湿度も低くて涼しい部屋で、おなかも満たされて、嵐の、ただ音だけを聞いている。

心地いい。

今から外なんて出たくないよ、せっかくお風呂入ったのに。
でも帰らなきゃ。
相馬は私がいつ帰るかと待ち侘びているかもしれない。
早く帰れよっていらいらしてるかも。
今日は相馬に散々迷惑を掛けちゃった、最悪な日だったな……帰らなきゃ……帰りたくない……。



「なあ霧野」

 遠ざかる意識を、相馬の声が辛うじて引き止める。


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