この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
unbalance
第11章 奇跡
幸せ、だった。
自分がやってしまったことは死ぬほど恥ずかしいけれど、それもまた事実だった。
相馬が私を呼ぶ切羽詰まった声。
汗で貼り付く肌、力強い腕、荒い息。
私に向けられた、熱い、それでも優しい、目線。
あんな夜、本当だったら有り得るはずのなかったことで、でも幸運にも有り得てしまって、そして、有り得てしまったが故に、また欲しくなってしまう。
けれど、本来なら一度だって奇跡みたいなもので、二度と来るはずがない夜。
幸せだった。
心の中で呟く。過去形で。
ぎゅっと胸が締めつけられる。
幸せだった。
いいことじゃない。何を悲しむことがある。
また込み上げてきた涙を、奥歯をぐっと噛み締めてこらえる。
相馬のほうは、どう思っているのだろうか。
単純に、誰でもいいからできてラッキーと思っているかもしれない。
そういう日もあるよね、ぐらいに思っているかもしれない。
手慣れてそうだもんな。モテそうだし。
こういうことも、彼にとっては日常茶飯事かもしれない。
もしかしたら、私に恥をかかせないために、応じてくれたのかもしれない。
私がいろいろ溜まってると思って、付き合ってくれたのかもしれない。
私にとっては人生で一度の大冒険でも。彼にとっては、きっと。
それでいいんだ。私では彼には釣り合わない。
帰ろう。