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第11章 奇跡



 私は鞄から付箋を取り出すと、昨夜の感謝と、謝罪と、家に帰るということを短く書き置いた。

 黙って出ていくなんてどんな酷い奴だと我ながら思うけれど、それでも、これが今私に取れる最良の選択だ。
私のためにも、相馬のためにも。
ごめん、わかって。



 テーブルの上を軽く片付けて――空になったお惣菜のパックをまとめて、空き缶を洗う程度だけど――テーブルの目立つところに付箋を貼り、
カバンを持って、忘れものをチェックして、部屋の中を見渡して、
やることがなくなってしまったことにがっかりしながら、のろのろと玄関に向かう。
洗面所の扉の前を通過して。



 そのとき、シャワーの音が止まった。

 ぎぃ、と洗面所の中でお風呂のドアが開く音に、過剰に跳び上がってしまう。



 相馬、出てきちゃう。

 早く行かなきゃ――いや、でも、今さらだけど、鍵開けたまま出ていくってこと? 
それは不用心じゃない?

 でも、だったらどうすれば。
短時間だし大丈夫だとは思うけれど――



 がちゃりと音がして、相馬が出てくるのは思いのほか早かった。

 まずい。

 肩にタオルを掛けた相馬が、玄関に立つ私を見て、目を丸くする。



「霧野…………え、帰るの?」

 ああ――まずい。


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