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unbalance
第12章 回想 不均衡

「俺がやるから」
いえ、私がやります、とは言えなかった。
それでグラスを倒したら、それはよく働く気の利いた後輩ではない。
ただの迷惑な出しゃばりだ。
相馬は一旦トングを置いて、私が手を伸ばした大皿のトングに持ち変えると、料理を小皿に分けて私に差し出した。
「ほい」
「え?」
「あれ? これ食べたかったんじゃないの?」
相馬はしばらく私の顔を見て、ああ、と一人頷き――
「そういうのは、得意な奴がやればいいんだよ。大人しく座ってろ」
暗に、私が苦手であることを指摘されたのがわかった。
相馬に嫌われていることに気づくには、一か月あれば充分だった。
別に文句を言うつもりはない。
そりゃ関わりたくもないだろう。毎日定時で帰る、仕事が速い優秀な人にとっては、毎日遅くまで仕事が終わらない人なんて。
文句を言うつもりはないが――傷つかないかどうかとは、別問題だ。

