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天狐あやかし秘譚
第80章 絶体絶命(ぜったいぜつめい)

日暮が言っていた。
『黄泉平坂の入口である千引の大岩が破壊されたことで、そこからまずは黄泉の妖魔である黄泉醜女が溢れてきています。基本的にはゾンビのようなもので、切っても突いても通常の攻撃では死ぬことはないです。もし祓いたければ、退魔の呪力で清めるか、火を使うか、です』
しかも恐ろしいことに、黄泉醜女は肉食だそうで、襲われれば骨まで食われてしまうとのことだった。
『胸に入れているアレキサンドライトがあれば発見されるリスクはかなり下がるはずです。交戦はできるだけ避けてください!』
確かに、チカチカと時折術者たちから黄泉醜女に光が走っている。あれは恐らく火の術式を使って醜女を撃退しようとしているのだろうと思われた。
黄泉醜女・・・、私は乏しい日本神話の知識を記憶の底から引っ張り出す。あれは確か、イザナギが黄泉の国を訪問した際に出てきた魔物だ。
彼が死んだ妻であるイザナミを黄泉の国まで迎えに行った時、彼女から「黄泉の国の神と相談してくるので、覗くな」と言われたのに、待ちきれずに岩戸の中を覗いてしまった。すると、そこには腐りかかった身体に何体もの雷神を纏わせた世にも恐ろしい姿のイザナミがいた。辱めを受けたイザナミは怒り狂い、黄泉醜女を引き連れてイザナギを追いかけ回したーという、そんな話だったはずだ。
敵の狙いはおそらく、黄泉平坂の中に入って、黄泉の国の神がいる神殿の岩扉を再び開いてしまうことではないかと、陰陽寮では言われていた。死返玉の神力こそ、イザナギが宿していた、黄泉の国の神に通じる扉を開く力であると予想されていた。そして、黄泉の国の岩戸が開けば本格的に死者たちがこの世に溢れ出すのだ。
簡単に言えば、黄泉の国は『千引の大岩』と『神殿の岩扉』の二つで遮られているのだが、今は、この内のひとつが破られている状態にあるのだ。あとひとつ破られれば文字通り日本は『死の国』になってしまう。
目を少し向こうにやると、クチナワが召喚した鵺が空を舞い、雷を落とし炎を吐いていた。以前大鹿島が一撃で屠っていたものと同じ化物とは思えないほど大きく、そして威圧的になっているように見えた。
『黄泉平坂の入口である千引の大岩が破壊されたことで、そこからまずは黄泉の妖魔である黄泉醜女が溢れてきています。基本的にはゾンビのようなもので、切っても突いても通常の攻撃では死ぬことはないです。もし祓いたければ、退魔の呪力で清めるか、火を使うか、です』
しかも恐ろしいことに、黄泉醜女は肉食だそうで、襲われれば骨まで食われてしまうとのことだった。
『胸に入れているアレキサンドライトがあれば発見されるリスクはかなり下がるはずです。交戦はできるだけ避けてください!』
確かに、チカチカと時折術者たちから黄泉醜女に光が走っている。あれは恐らく火の術式を使って醜女を撃退しようとしているのだろうと思われた。
黄泉醜女・・・、私は乏しい日本神話の知識を記憶の底から引っ張り出す。あれは確か、イザナギが黄泉の国を訪問した際に出てきた魔物だ。
彼が死んだ妻であるイザナミを黄泉の国まで迎えに行った時、彼女から「黄泉の国の神と相談してくるので、覗くな」と言われたのに、待ちきれずに岩戸の中を覗いてしまった。すると、そこには腐りかかった身体に何体もの雷神を纏わせた世にも恐ろしい姿のイザナミがいた。辱めを受けたイザナミは怒り狂い、黄泉醜女を引き連れてイザナギを追いかけ回したーという、そんな話だったはずだ。
敵の狙いはおそらく、黄泉平坂の中に入って、黄泉の国の神がいる神殿の岩扉を再び開いてしまうことではないかと、陰陽寮では言われていた。死返玉の神力こそ、イザナギが宿していた、黄泉の国の神に通じる扉を開く力であると予想されていた。そして、黄泉の国の岩戸が開けば本格的に死者たちがこの世に溢れ出すのだ。
簡単に言えば、黄泉の国は『千引の大岩』と『神殿の岩扉』の二つで遮られているのだが、今は、この内のひとつが破られている状態にあるのだ。あとひとつ破られれば文字通り日本は『死の国』になってしまう。
目を少し向こうにやると、クチナワが召喚した鵺が空を舞い、雷を落とし炎を吐いていた。以前大鹿島が一撃で屠っていたものと同じ化物とは思えないほど大きく、そして威圧的になっているように見えた。

