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天狐あやかし秘譚
第80章 絶体絶命(ぜったいぜつめい)
どうしよう・・・どうやら死霊を追いかけているのは土御門のようだけど、牛鬼達が遮ってこちらに来られないでいる。しかも上空からは鵺が雷をバンバン落としている。黄泉平坂の周囲にいる祭部達も黄泉醜女退治で手一杯だ。

ダリは・・・
どうしてだろう?あの倒れている男のところから動こうとしない。もしかしたらこちらにあの首無し死霊が迫っていることに気づいていない!?

私がオロオロと迷っている内に、首無し死霊が黄泉平坂の入口に飛び込んでしまった。牛鬼達が暴れていて、当分、土御門もこちらに来れそうにない。

ど・・・どうしよう・・・

私はちらりと足元にいた猫神を見た。
そして、心に決める。

しゃがみ込んで猫神に言ってみた。
言葉通じるかわからないけど、式神ならきっと分かってくれるよね?

「ねえ、猫神・・・うん・・・ニャンコ先生?
 私、黄泉平坂に連れてかれた麻衣ちゃんを助けたいの。
 だからね、私の代わりにダリを、連れてきてほしいの。
 きっと、私が彼を呼びに行っていたら間に合わない気がする。
 お願い、聞いてくれる?」

はたから見るとネコに真剣にお願いしている変な人、のように見えなくもない気がするが、事態が事態だけにそんなことは言ってられない。自分が今持っているリュックの中の装備だけで、あの正体不明の筋骨隆々たる首無し死霊をなんとかできるかどうかはわからない。加えて麻衣ちゃんはあちらの言いなりになっている可能性が高い。

状況は絶望的だ。
でも、でも・・・
とても、嫌な予感がする。
なにかとてつもなく悪いことが起こりそうな、そんな予感だ。

その思いが私を突き動かしていた。

「お願い!ニャンコ先生!」

もう一度言うと私は駆け出した。
後ろで『にゃあ!』と鳴いた猫神の声は、私の願望も入っているのかもしれないけれど、なんとなく『任せておけ』とでも言っているような頼もしさを感じた。

ダリ・・・どうか、早く来て!

祈る気持ちで私は走る。地獄の入口のような妖気を漂わせている、黄泉平坂の洞に向かって。
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