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天狐あやかし秘譚
第81章 覆水不返(ふくすいふへん)

☆☆☆
大分引き離されてしまったけれども、なんとか私は麻衣ちゃん達に食らいついていた。身体は相変わらず重く、まるで重病にかかったときのように全身がだるい。息をするのもやっとであり、足を前に出し続けるのも一苦労だった。お腹にある呪符が自分を支えているのがよく分かる。この符の力がなければ一歩たりとも動くことはできないだろう。
黄泉平坂を300メートルくらい下ったところで、坂が右に大きく迂回していた。この角を曲がったあたりにくると、周囲は少し洞窟のようになり、左右が断崖絶壁ということはなくなった。それはそれで少し安心感はあるのだが、今度は圧迫感をより強く感じるようになっていた。
洞窟と言っても直径が5〜60メートルはある。トンネルというには広すぎるくらいだし、相変わらず薄ぼんやりとした光で満たされている。そう考えるとあまり圧迫を感じる必要はないように思えるが強い圧迫感があるのは、おそらくここが黄泉だから、だろう。
トンネルの地面はゴロゴロと小さな石が転がっているだけで植物も動物もない。先程トンネルから溢れていた黄泉醜女が溢れていたらどうしようかと思っていたが、そういうこともなかった。ただただひたすらに道が続いているだけだった。
右に大きく曲がったトンネルは、次に左に曲がっていた。重い足を何とか引きずってその角までたどり着くと、100メートルほど先に大きな岩壁があり、その前に麻衣ちゃんと例の大男が並んで立っていた。
麻衣ちゃんと大男は何らかの『儀式』をやっているように見えた。麻衣ちゃんが胸の前で手を合わせて、何か必死に祈っているようだった。
何をしているのかわからないが、恐らく良いことではない。
あの儀式を、麻衣ちゃんの祈りをなんとかして止めなくてはいけない。
その一心で歩を進める。
「麻衣ちゃん!やめて!ダメ!」
必死に距離を詰めるが、その間にも『儀式』は進んでいってしまう。麻衣ちゃんの周囲を薄青い光が取り囲み、彼女の身体がふわりと浮き上がる。
直後、私は信じられない光景を目にする。
麻衣ちゃんの眼前に立ちはだかっている岩の壁が、すーっと透け始めたのだ。そして、透けた先に無数の影が蠢いているのが見えた。その影はよく見るとひとつひとつが人形をしている。ある者は手を振り、ある者は身体をゆらりゆらりと左右に揺らしているようだった。
大分引き離されてしまったけれども、なんとか私は麻衣ちゃん達に食らいついていた。身体は相変わらず重く、まるで重病にかかったときのように全身がだるい。息をするのもやっとであり、足を前に出し続けるのも一苦労だった。お腹にある呪符が自分を支えているのがよく分かる。この符の力がなければ一歩たりとも動くことはできないだろう。
黄泉平坂を300メートルくらい下ったところで、坂が右に大きく迂回していた。この角を曲がったあたりにくると、周囲は少し洞窟のようになり、左右が断崖絶壁ということはなくなった。それはそれで少し安心感はあるのだが、今度は圧迫感をより強く感じるようになっていた。
洞窟と言っても直径が5〜60メートルはある。トンネルというには広すぎるくらいだし、相変わらず薄ぼんやりとした光で満たされている。そう考えるとあまり圧迫を感じる必要はないように思えるが強い圧迫感があるのは、おそらくここが黄泉だから、だろう。
トンネルの地面はゴロゴロと小さな石が転がっているだけで植物も動物もない。先程トンネルから溢れていた黄泉醜女が溢れていたらどうしようかと思っていたが、そういうこともなかった。ただただひたすらに道が続いているだけだった。
右に大きく曲がったトンネルは、次に左に曲がっていた。重い足を何とか引きずってその角までたどり着くと、100メートルほど先に大きな岩壁があり、その前に麻衣ちゃんと例の大男が並んで立っていた。
麻衣ちゃんと大男は何らかの『儀式』をやっているように見えた。麻衣ちゃんが胸の前で手を合わせて、何か必死に祈っているようだった。
何をしているのかわからないが、恐らく良いことではない。
あの儀式を、麻衣ちゃんの祈りをなんとかして止めなくてはいけない。
その一心で歩を進める。
「麻衣ちゃん!やめて!ダメ!」
必死に距離を詰めるが、その間にも『儀式』は進んでいってしまう。麻衣ちゃんの周囲を薄青い光が取り囲み、彼女の身体がふわりと浮き上がる。
直後、私は信じられない光景を目にする。
麻衣ちゃんの眼前に立ちはだかっている岩の壁が、すーっと透け始めたのだ。そして、透けた先に無数の影が蠢いているのが見えた。その影はよく見るとひとつひとつが人形をしている。ある者は手を振り、ある者は身体をゆらりゆらりと左右に揺らしているようだった。

