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天狐あやかし秘譚
第81章 覆水不返(ふくすいふへん)
「麻衣ちゃん、大丈夫?」
お母さんが額に冷たく絞ったタオルを置いてくれる。すーっと体が冷えていくような、良い気持ちがした。私は、うん、とひとつ頷いた。

「じゃあね、寝てなね?」
「麻衣、早く治して、大牧に行こう」
お父さんも襖から顔を出して言う。大牧とは『大牧スパ』のことで、大きなお風呂やマンガスペースがある施設だった。
私は、お父さんに向かっても、うん、と大きく頷いた。

これが、二人と話した、最後の会話だった。

午後4時10分

寝ていた私は恐ろしい地響きの音で目が覚めた。
それはゴゴゴゴと、まるで地獄の底から響いてくるような、今までに聞いたことがない音だった。

何!?

思った瞬間、ビーユン、ビーユン、ビーユンという聞き慣れない電子音があちこちから響く。異様な雰囲気があたりを包んだかと思った刹那、ドン!と突き上げるような振動とともに、大きく家が、いや、空間そのものが揺れ動いた。

「きゃああ!!」

慌てて布団に潜り込んだ。ガラガラと何かが落ちる音、誰かの悲鳴、ガラスが割れる音、金属がひしゃげる音、うめき声、バラバラと布団の上に何かが落ちてきて、ドンと身体が強く圧迫された。

私が覚えていたのは、ここまでだった。

私達の家を襲ったのは、後に『能登半島地震』と呼ばれる大地震。そして、私の家の付近は最も被害が大きい地域のひとつだった。

タンスが私の体の上に斜めに覆いかぶさっていたことで、私は倒壊した屋根に押しつぶされずに済んだらしかった。しかし、家族はみんな・・・

猫のミーは見つからなかったらしいけれども、多分死んでしまったと思う。

私がもし、お熱を出さなかったら。
みんな、地震に遭わなかった。

みんな、死ななかった。
みんな・・・今でも、笑っていた。

ごめんさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

助けるから・・・麻衣が、麻衣が助けるから。

そこに見えている。お父さんが手を振っている。お母さんが笑っている。
その後ろにいるのはお兄ちゃん?
おじいちゃんも、おばあちゃんも見える。町の人も・・・

私が、みんな助けるから。
だって、緋紅っていうお兄ちゃんが言ってたもの。
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