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天狐あやかし秘譚
第81章 覆水不返(ふくすいふへん)

もしかして・・・?
うねうねと動く黒い影の中に、すっと立っている細身の人がいた。他の人と違ってたくさんの布を使った白っぽい服を着て、じっとこちらを見ているようだった。
あれかな?
『見つけたら、名前を呼ぶんだ。
名前を呼べば、つながるから・・・』
お名前・・・お姫様のお名前・・・
確か・・・
その時、ドン、と背中から衝撃を感じた。誰かが体当たりをしてきたのだ。
「ダメ!そこを開けちゃダメ!!」
私の身体を押さえつけてくる。女の人だ。この人は、いつだったか、私のことを攫いに来た人。私がお父さんと、お母さんと会うのを邪魔しに来た人。
「邪魔しないで!」
私は体をねじって逃れようとするけれども、女の人は私を離そうとしない。私をここにつれてきてくれたヤギョウさんは、儀式のための『場所』を作るために動くことができない。私が、なんとかしなくちゃ・・・
「麻衣ちゃん、お願い!そこを開けても・・・!」
呼ばなくちゃ・・・お姫様の名前。早く。
その名は・・・!
「お父さんやお母さんは帰ってこないの!!」
え・・・?
女の人の声が私の脳にきちんと届いて、その意味を理解する前に、私の唇は動いていた。
古代のお姫様の名前。あの人は、緋紅は、それは神様の名だと言っていた。
「イ、ザ、ナ、ミ・・・」
その名、黄泉を統べる日本最古の神の名が私の手にした死返玉の最後の封印を内と外から破っていく。
私の手から黒い光が溢れ出す。
それは黄泉の障壁を粉々に吹き飛ばしていった。
だけど、この時の私は理解をしていなかった。
この吹き飛ばされた岩戸こそが、地獄の扉だったのだ、ということを。
うねうねと動く黒い影の中に、すっと立っている細身の人がいた。他の人と違ってたくさんの布を使った白っぽい服を着て、じっとこちらを見ているようだった。
あれかな?
『見つけたら、名前を呼ぶんだ。
名前を呼べば、つながるから・・・』
お名前・・・お姫様のお名前・・・
確か・・・
その時、ドン、と背中から衝撃を感じた。誰かが体当たりをしてきたのだ。
「ダメ!そこを開けちゃダメ!!」
私の身体を押さえつけてくる。女の人だ。この人は、いつだったか、私のことを攫いに来た人。私がお父さんと、お母さんと会うのを邪魔しに来た人。
「邪魔しないで!」
私は体をねじって逃れようとするけれども、女の人は私を離そうとしない。私をここにつれてきてくれたヤギョウさんは、儀式のための『場所』を作るために動くことができない。私が、なんとかしなくちゃ・・・
「麻衣ちゃん、お願い!そこを開けても・・・!」
呼ばなくちゃ・・・お姫様の名前。早く。
その名は・・・!
「お父さんやお母さんは帰ってこないの!!」
え・・・?
女の人の声が私の脳にきちんと届いて、その意味を理解する前に、私の唇は動いていた。
古代のお姫様の名前。あの人は、緋紅は、それは神様の名だと言っていた。
「イ、ザ、ナ、ミ・・・」
その名、黄泉を統べる日本最古の神の名が私の手にした死返玉の最後の封印を内と外から破っていく。
私の手から黒い光が溢れ出す。
それは黄泉の障壁を粉々に吹き飛ばしていった。
だけど、この時の私は理解をしていなかった。
この吹き飛ばされた岩戸こそが、地獄の扉だったのだ、ということを。

