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天狐あやかし秘譚
第82章 悲壮淋漓(ひそうりんり)

♡ーーーーー♡
【悲壮淋漓】悲しみの中にあっても、雄雄しい気概に満ちていること。
どんなに深い悲しみの底からでも、生命は生きようとするんだ!みたいな。
♡ーーーーー♡
「イザナミ・・・」
麻衣ちゃんの唇が、禁忌の神の名をなぞった。
その瞬間、彼女の手に握られていた死返玉が黒色の光としかいいようがないものを溢れさせた。目の前の岩戸が今度こそバラバラに砕け散り、黄泉の奥から、今までとは比べ物にならないほどの濃度の瘴気が押し寄せてきた。
バチン!
お腹の中で呪符が弾けるのが分かった。あまりに強い外圧に符が耐えられなくなったのだ。途端にあたかも地球の重力が数倍になったかのような重みを身体に感じる。
「ぐうう・・・・」
一呼吸ごとに喉が灼ける。明らかに身体が蝕まれている。できるだけ息をしないように持っていたハンカチを口に当ててはみたが、あまり意味はなさそうだ。
ぐおおおん
うおおおおん
ぐうううあああうう
うめき声とも、怨嗟の叫びともつかない不気味な音が聞こえてくる。
「お父さん!お母さん!!」
麻衣ちゃんが声を上げ、私の体の下から這い出してしまう。彼女は先程の儀式の作用なのだろうか、青い光に包まれており、この瘴気の中でも動くことができるようだ。
「麻衣・・・ごほ、ごほ・・・ちゃん・・・ごほ・・・」
彼女を引き戻すため、なんとか立ち上がろうとするが、身体が思うように全く動かない。今、私の身体を守っているのは、恐らく日暮からもらったアレキサンドライトだけだ。霞む目を必死に凝らしながら、麻衣ちゃんの姿を追う。
麻衣ちゃんはお父さん、お母さんと思しき影に駆け寄ろうとしているようだった。
しかし・・・
「お・・・父さん?」
彼女の足が止まる。そして、ゆっくりと後ずさっていった。
どうしたの?何があったの!?
目の焦点が合わない。硫黄のような強い臭気が目に沁みて、じわっと涙が溢れてくる。目をこすり、なんとか状況を把握しようとする。
「麻衣・・・ちゃん・・・」
麻衣ちゃんが首を振りながら震えていた。その視線の先に目をやり、彼女が何を恐れているかを知った。
そんな・・・。
【悲壮淋漓】悲しみの中にあっても、雄雄しい気概に満ちていること。
どんなに深い悲しみの底からでも、生命は生きようとするんだ!みたいな。
♡ーーーーー♡
「イザナミ・・・」
麻衣ちゃんの唇が、禁忌の神の名をなぞった。
その瞬間、彼女の手に握られていた死返玉が黒色の光としかいいようがないものを溢れさせた。目の前の岩戸が今度こそバラバラに砕け散り、黄泉の奥から、今までとは比べ物にならないほどの濃度の瘴気が押し寄せてきた。
バチン!
お腹の中で呪符が弾けるのが分かった。あまりに強い外圧に符が耐えられなくなったのだ。途端にあたかも地球の重力が数倍になったかのような重みを身体に感じる。
「ぐうう・・・・」
一呼吸ごとに喉が灼ける。明らかに身体が蝕まれている。できるだけ息をしないように持っていたハンカチを口に当ててはみたが、あまり意味はなさそうだ。
ぐおおおん
うおおおおん
ぐうううあああうう
うめき声とも、怨嗟の叫びともつかない不気味な音が聞こえてくる。
「お父さん!お母さん!!」
麻衣ちゃんが声を上げ、私の体の下から這い出してしまう。彼女は先程の儀式の作用なのだろうか、青い光に包まれており、この瘴気の中でも動くことができるようだ。
「麻衣・・・ごほ、ごほ・・・ちゃん・・・ごほ・・・」
彼女を引き戻すため、なんとか立ち上がろうとするが、身体が思うように全く動かない。今、私の身体を守っているのは、恐らく日暮からもらったアレキサンドライトだけだ。霞む目を必死に凝らしながら、麻衣ちゃんの姿を追う。
麻衣ちゃんはお父さん、お母さんと思しき影に駆け寄ろうとしているようだった。
しかし・・・
「お・・・父さん?」
彼女の足が止まる。そして、ゆっくりと後ずさっていった。
どうしたの?何があったの!?
目の焦点が合わない。硫黄のような強い臭気が目に沁みて、じわっと涙が溢れてくる。目をこすり、なんとか状況を把握しようとする。
「麻衣・・・ちゃん・・・」
麻衣ちゃんが首を振りながら震えていた。その視線の先に目をやり、彼女が何を恐れているかを知った。
そんな・・・。

