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天狐あやかし秘譚
第82章 悲壮淋漓(ひそうりんり)

「そは、妾らの武具ぞ?」
ぐいっと無造作に掴むと、そのまま前方にダリごと放り投げる。くるりと受け身を取ったダリは素早く呪言を奏上し始める。
「大雷(おおいかずち)、火雷(ほのいかずち)、
黒雷(くろいかずち)、柝雷(さくいかづち)、
若雷(わかいかずち)、土雷(つちいかずち)、
鳴雷(なるいかずち)、伏雷(ふしいかずち)、
黄泉の八雷神(はちらいしん)、その荒御魂(あらみたま)にて、
我が仇敵(あだてき)を四つ切り裂き、八つに分かてよ!」
ダリの周囲に八つの雷球が浮かび、呪言とともに瞬く間に膨らみ始める。
「何ぞ・・・黄泉の神たる妾に黄泉の雷神の力で放つ術とは・・・」
ダリが右手をイザナミにかざすと、八つの雷球が一斉に彼女を襲う。しかし、イザナミがふっと息を吹きかけると、そこから黒い風が巻き上がり、雷球を悉く巻き取り、絡め取ってしまった。
しかし、ダリはすでに次の行動を起こしていた。槍を脇構えにすると、素早く呪言を奏上する。
「天地を 玉ごに照らす 久方の日よ
天離る 日なき根の国 もののこそ去ね」
ダリの妖力によって導かれた魔を滅する清浄なる光が、その槍の穂先に収束する。
「多彩な狐じゃな・・・今度は退魔光か・・・」
だが・・・
にやりとイザナミは笑った。
「妾を『魔』と呼ぶには、いささかお主は力不足じゃ・・・」
ダリの退魔光に限らず、「魔を滅する」という概念は強さの序列が影響する。より上位のものが下位のものを「魔」と定義し、祓う、という構図なのだ。今の場合、日本創世の女神であるイザナミは、神に近い力を持つとはいえ、妖怪に過ぎないダリよりも『上位』の存在である。
退魔の光で祓うことはできないのだ。
なので、イザナミは何もしない。その光が己に毛ほどの傷をつけることができないことを知っているからだった。
だが、ダリの狙いは別にあった。
一瞬の光の奔流がイザナミの目を眩ませる。その隙に、ダリは大きく飛び上がり、上空から最強の槍『天魔反戈』(あまのかえしのほこ)で邪神の眉間を狙った。
死せよ!
ダリのタイミングは完璧だった。退魔の光が満ちた一瞬を捉えて、正確にイザナミの眉間に最強の一撃を叩き込んだ・・・はずだった。
ぐいっと無造作に掴むと、そのまま前方にダリごと放り投げる。くるりと受け身を取ったダリは素早く呪言を奏上し始める。
「大雷(おおいかずち)、火雷(ほのいかずち)、
黒雷(くろいかずち)、柝雷(さくいかづち)、
若雷(わかいかずち)、土雷(つちいかずち)、
鳴雷(なるいかずち)、伏雷(ふしいかずち)、
黄泉の八雷神(はちらいしん)、その荒御魂(あらみたま)にて、
我が仇敵(あだてき)を四つ切り裂き、八つに分かてよ!」
ダリの周囲に八つの雷球が浮かび、呪言とともに瞬く間に膨らみ始める。
「何ぞ・・・黄泉の神たる妾に黄泉の雷神の力で放つ術とは・・・」
ダリが右手をイザナミにかざすと、八つの雷球が一斉に彼女を襲う。しかし、イザナミがふっと息を吹きかけると、そこから黒い風が巻き上がり、雷球を悉く巻き取り、絡め取ってしまった。
しかし、ダリはすでに次の行動を起こしていた。槍を脇構えにすると、素早く呪言を奏上する。
「天地を 玉ごに照らす 久方の日よ
天離る 日なき根の国 もののこそ去ね」
ダリの妖力によって導かれた魔を滅する清浄なる光が、その槍の穂先に収束する。
「多彩な狐じゃな・・・今度は退魔光か・・・」
だが・・・
にやりとイザナミは笑った。
「妾を『魔』と呼ぶには、いささかお主は力不足じゃ・・・」
ダリの退魔光に限らず、「魔を滅する」という概念は強さの序列が影響する。より上位のものが下位のものを「魔」と定義し、祓う、という構図なのだ。今の場合、日本創世の女神であるイザナミは、神に近い力を持つとはいえ、妖怪に過ぎないダリよりも『上位』の存在である。
退魔の光で祓うことはできないのだ。
なので、イザナミは何もしない。その光が己に毛ほどの傷をつけることができないことを知っているからだった。
だが、ダリの狙いは別にあった。
一瞬の光の奔流がイザナミの目を眩ませる。その隙に、ダリは大きく飛び上がり、上空から最強の槍『天魔反戈』(あまのかえしのほこ)で邪神の眉間を狙った。
死せよ!
ダリのタイミングは完璧だった。退魔の光が満ちた一瞬を捉えて、正確にイザナミの眉間に最強の一撃を叩き込んだ・・・はずだった。

