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天狐あやかし秘譚
第83章 一業所感(いちごうしょかん)

ーなのに、なぜ、あのような目で妾を見つめるのだ?
その目は死者が持つ独特の淀みを持っていなかった。ふらつきながら、震えながら立つ女の目は輝きを失ってはいなかったのである。
「傷・・・つけ・・・るな!」
ー傷つけるな、だと?
イザナミは心の中で失笑する。『骸』ごときが、何をたわけたことをと嘲笑った。
ーお前が必死で守ろうとしている、その男。それが、今でもお前を愛しているとでも思っているのか?
死して、骨が剥き出しになり、蛆にたかられ、黄泉の死臭を纏ったお前が、愛されるとでも?
与えたところで無駄だ。
何も帰ってきはしない。
虚ろに水を注ぐようなものだ。
ピ!
イザナミは黒い光弾で綾音の足を撃ち抜いた。
ー『骸』とて、痛みはあるだろう?
足が折れれば倒れざるを得ないだろう?
お前が倒れれば、その後ろの男も道連れに殺してやろうぞ・・・
ピ!
もう片方の足も撃ち抜く。『ぐう・・・』と苦悶の表情を浮かべ、綾音が両の膝を折る。しかし、掲げた手は降ろさない。震える身体は倒れることはなかった。
ゆっくりと、綾音は顔を持ち上げる。
そこには、なおも光を失わない瞳があった。
それを見た時、イザナミの背がかすかに震える。
ーなんだ・・・なんだ此奴(こやつ)は!?
なぜ、そのような姿になってまで、そんな目で妾を見ることができる?
ピ!ピ!ピ!
左肩を、右胸を、喉を、黒い光が貫いた。
『がはっ!』
黒く淀んだ血の塊のようなものが綾音の口から吐き出される。もはや両の手を挙げることもできない。膝立ちで姿勢を支えるので精一杯だった。
「・・・ない・・・」
ぽつりと、呟くような声。
バサリと顔にかかる髪の毛の隙間からなおイザナミを見つめる目。
ゾクリと、今度は明確にイザナミの背に震えが走った。
この時、イザナミはその感覚が何かをようやく思い出した。
『恐怖』
それは怖気(おぞけ)だった。
ーあやしきこと・・・!このようなことはありえぬことだ。
神である身に馴染みのないその感情は、イザナミを激しく混乱させた。
ーなんだ、なんだこいつは!
こいつらは!!
イザナミは石の玉座から立ち上がり、後ずさる。足が、手が震える。
ー断ち切らねば。こやつは、こやつらは危険だ。
その目は死者が持つ独特の淀みを持っていなかった。ふらつきながら、震えながら立つ女の目は輝きを失ってはいなかったのである。
「傷・・・つけ・・・るな!」
ー傷つけるな、だと?
イザナミは心の中で失笑する。『骸』ごときが、何をたわけたことをと嘲笑った。
ーお前が必死で守ろうとしている、その男。それが、今でもお前を愛しているとでも思っているのか?
死して、骨が剥き出しになり、蛆にたかられ、黄泉の死臭を纏ったお前が、愛されるとでも?
与えたところで無駄だ。
何も帰ってきはしない。
虚ろに水を注ぐようなものだ。
ピ!
イザナミは黒い光弾で綾音の足を撃ち抜いた。
ー『骸』とて、痛みはあるだろう?
足が折れれば倒れざるを得ないだろう?
お前が倒れれば、その後ろの男も道連れに殺してやろうぞ・・・
ピ!
もう片方の足も撃ち抜く。『ぐう・・・』と苦悶の表情を浮かべ、綾音が両の膝を折る。しかし、掲げた手は降ろさない。震える身体は倒れることはなかった。
ゆっくりと、綾音は顔を持ち上げる。
そこには、なおも光を失わない瞳があった。
それを見た時、イザナミの背がかすかに震える。
ーなんだ・・・なんだ此奴(こやつ)は!?
なぜ、そのような姿になってまで、そんな目で妾を見ることができる?
ピ!ピ!ピ!
左肩を、右胸を、喉を、黒い光が貫いた。
『がはっ!』
黒く淀んだ血の塊のようなものが綾音の口から吐き出される。もはや両の手を挙げることもできない。膝立ちで姿勢を支えるので精一杯だった。
「・・・ない・・・」
ぽつりと、呟くような声。
バサリと顔にかかる髪の毛の隙間からなおイザナミを見つめる目。
ゾクリと、今度は明確にイザナミの背に震えが走った。
この時、イザナミはその感覚が何かをようやく思い出した。
『恐怖』
それは怖気(おぞけ)だった。
ーあやしきこと・・・!このようなことはありえぬことだ。
神である身に馴染みのないその感情は、イザナミを激しく混乱させた。
ーなんだ、なんだこいつは!
こいつらは!!
イザナミは石の玉座から立ち上がり、後ずさる。足が、手が震える。
ー断ち切らねば。こやつは、こやつらは危険だ。

