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天狐あやかし秘譚
第83章 一業所感(いちごうしょかん)
「綾音・・・体に障りはないか?」
ダリが心配そうに声をかけてくる。
この一時間で、それ、もう6回目だよ?

私は瀬良からもらった報告書をパタンと閉じると、ダリに顔を向けた。まだ、右目は眼帯が取れていないので、距離感がいまいち掴めないが、心配そうな顔をしているのはもちろんよく分かった。

「うん、特に問題ないよ。大丈夫だよ」
「そうか」

ダリが立ち上がり、飾り気のない壁に設えてある窓から外を眺める。私もつられて外を見ると、そこにはスッキリと晴れ渡った初夏の空が見えた。

ああ、きれいだなあ・・・。

「ダリ、清香ちゃん達は?」
「ああ、息災だ。今日、午後には見舞いに来ると言っていた」
「え?そうなの!?」

それは嬉しいサプライズだ。
実は私自身もまた、つい一昨日までは集中治療室預かりの身だったのだ。清香ちゃん達に会えるのは本当に嬉しい。

不意に、ぽろっと左目から涙がこぼれた。

「いかがした?綾音・・・どこか痛むのか?」
目ざとくそれを見つけたダリが顔を近づけてくる。イケメンのドアップに心臓が別の意味で跳ね上がる。

「ううん・・・違うの。ああ・・・帰ってきたあって思ったからさ」
やっぱり私にとっての日常は、ダリがいて、清香ちゃんと芝三郎がいて、桔梗さんがいるあの家にある。

綿貫亭

それを思い出してしまったことで、ふっと体の力が抜けてしまったみたいだった。これまで心の奥底にしまわれていた恐怖や不安、後悔や安堵が涙になって出てきたような、そんな感じだった。

「薬師も、あと10日ほどでここを出られると申しておった。今しばらくの辛抱だ」
「うん、そうだね」
ダリが笑って、私も笑った。

こんな風に笑えるなんて、あの時は、思えなかった。
そう、一度は死んだはずの私が、なぜ生きていられたのか。

それには、いくつもの偶然と、多くの人の力が関わっていた。
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