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天狐あやかし秘譚
第83章 一業所感(いちごうしょかん)
☆☆☆
イザナミが祓われると、パタリと麻衣がその場に倒れ込んだ。生きてはいるが、神の依代とされ、かなり消耗したことで、動くことすらできない様子だった。

ダリは、そっと、綾音の『骸』を横たえた。
黄泉路の入口にいるためにまだかろうじて動いているが、心臓は握りつぶされて疾うの昔に機能を失い、その身体は強い瘴気による腐敗が進んでいた。ほんとうの意味での『死』、魂が黄泉に呑み込まれるのも時間の問題だった。

いかに神のごとき妖力を持った天狐でも、死者を蘇生させることはできない。
意識が黄泉路の闇に溶けるまで、せめてもその隣に居続けよう、そう、ダリは考えていた。

「綾音・・・綾音・・・」

名を、呼ぶことしかできない。天狐として生まれて2000年、これほどまでに自分の無力を感じたことはなかった。

手を握る。しかし、温かった綾音の体温を感じることはできなかった。
死が、すべてを奪っていこうとしていた。

「だ・・・り・・・」
綾音が笑った。無理矢理に唇を歪ませるようにして、それでも『笑顔』とわかるように。骸の身で身体を動かそうとすること、それがどれほど辛いことか、ダリにもよく分かっていた。

「綾音・・・もう話すでない。我はここにおる・・・ずっと、ずっとおる」

綾音の唇が動いた。ダリは必死に、紡がれようとしている言葉を、そこに込められている想いを聴こうとした。

あ・・・りが・・・と・・・う

唇が動き、目が少しだけ動く。その視線は傍らに横たわる麻衣に注がれていた。

「主は・・・その様になってまでなお、人を助けよというのか・・・
 案ずるな、すでに手は打ってある。結界を張った、治癒も行った。
 あの者は、永らえる。案ずるな・・・案ずることはない。
 綾音・・・綾音よ」

唇が、少しだけあがった。それは、笑っているようにも見えた。しかし、すぐにその目は光を失い、まぶたが震え、力なく落ちていった。

ダリの目に涙が溢れる。

「逝くな・・・逝くな、綾音・・・
 我を残して・・・逝くな・・・」

手を握る。己の体温が、綾音の身体に移って、いま一度温まれと願う。
そんなことは無益なことだと分かっていた。でも、そうせずにはいられなかった。
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