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天狐あやかし秘譚
第85章 興味津々(きょうみしんしん)
「お嬢さん、ただもんじゃないね・・・」

男がこちらにゆっくりと歩いてきた。私は慌てて周囲の気配を探る。猫神が呼べればまだ勝機がある・・・が、あれだけ放ったはずの式神たちの気配は全く感じられなかった。

「おっと、式を呼ぼうったって無駄だよ。ここには簡易結界があるし、さっき外で何匹か見つけてぶっ殺しといたから」

そんな・・・

猫神は、たとえ大鹿島の玄武盤石厳界のような最強の結界であったとしても、『内と外』にいさえすれば道を繋げられる。しかし、『外』にしかいないのなら、他の式神と同じだ。結界を破らなければ入ってこれない。

「日暮・・・美澄さん?・・・あんた、何者?宮内庁特別管理局ってあるけれど」

女が私のIDを指先に挟んで示す。IDには「陰陽寮」とは書いていない。当然だ。陰陽寮の存在は秘密事項だからだ。なので、私達陰陽寮職員の所属は、表面上、宮内庁長官官房直下にある附置機関『特別管理局』となっている。

「ネットで叩いても名前しか出てこないんだけど。何のお仕事?」
妖艶な笑みを投げかけてくる。この時点で、私に取れる策は、ニャンコ先生が早く陰陽寮のみんなをここにつれてきてくれること、それに賭けるだけだった。

早く!早く来て!!

「聞いたことがあるな」
男が口を開く。
「宮内庁に、陰陽寮ってのがあって、日本で起きる呪的事件の処理をしているってな。呪い屋の間での都市伝説かと思っていたけど・・・まさかね」

くいっと男が私の顎を掴んで顔を引き上げる。

「式神使い、術式は・・・土か?・・・俺の集魂祇王呪(しゅうこんぎおうしゅ)を見破ったのか?」
「どういうこと?」
男の方は私の素性について気づいているようだが、女は要領を得ないようだ。どうやら男は陰陽寮が把握していない陰陽師、いわゆる『はぐれ』というやつのようだ。

こいつ・・・多分、強い・・・

「どうやら、お役所に目をつけられたみたいだ。早くここを引き払ったほうがいい」
男が言うと、女は舌打ちをする。上品な見た目と違い、随分粗野なところもあるようだ。
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