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天狐あやかし秘譚
第85章 興味津々(きょうみしんしん)
「鴻上(こうがみ)・・・今の時点で出荷できるのは?」
「仕上がっているのは12人ってところかな。後はまだ途中だ。」
「まあ、いい。仕上がってなくても値が下がるだけで売れなくはない。とりあえず次の『船』で全員出荷しましょう。ここは放棄せざるを得ないわね・・・。」

女はため息をつく。
出荷、というのが「海外への売り飛ばし」だということは私にも分かった。

要はコイツら、人身売買組織なのだ。

「この日暮ってやつはどうする?バラすか?」

ひぃいい!
ほ、本当に「殺す」ことを「バラす」っていうんだああ!!

変なところに感心してしまう。まるで映画の中のワンシーンのように現実味はないが、私は今、人生最大のピンチに陥っているのは間違いない。生命の・・・ピンチだ!!

「いや・・・せっかくだから、この子も出荷しちゃいましょ。よく見ると、なかなか肉付きのいい身体してんじゃない。髪型と化粧がいただけないけど、そこらへん調整すればなかなかの値がつくんじゃない?
 鴻上、『赤』、手持ち、まだあるでしょ?」
鴻上と呼ばれた男が片眉を上げてにやりと笑う。ポケットからプラスチックの容器を取り出すと、そこから例の『薬』を取り出した。

色は『赤』だ。

「俺の術式を解読したんだろ?だったら、これがなんだか分かるな?」

無駄な抵抗かもしれないが、私は口をぎゅっと閉ざした。あんなもの、飲まされてたまるか!

「無駄だ・・・」
男は指で無理矢理私の口をこじ開けて、『薬』を押し込んできた。しゅわっと口の中で『赤色』が溶けていく。

飲まされた・・・!?でも、ここは・・・

「ここ、結界内だから不浄霊がいないだろうとか思って安心してるか?それも無駄。そんなミスするわけねえだろ。あらかじめ、結界内にたっぷりととどめてあるんだよ・・・」

肌から、何かが沁み込んでくる感じがする。熱い何かが、私の外から中に入ってくる。私の全身を犯してくる・・・。それらは、身体の中を回り、お腹の中でぐるぐると回り始める。ふつふつと胎内が沸騰する感覚。ゾワゾワとした落ち着かない感触が背筋を伝って駆け上ってくる。

「あぁ・・・あ・・・あがああ・・・・」

体を駆け巡った『それ』は脳を侵し、また全てのチャクラを通じてお腹の中に降りてくる。私のいちばん大事な、大事な魂の座に入り込み、巣食っていく。
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