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天狐あやかし秘譚
第98章 大信不約(たいしんふやく)
「旦那様が亡くなられて、まぐわいがなくなったことで、私の妖力は急速に衰えていきました。そのために、通常の姿を維持することも能わず、このような幼子の姿にまで身をやつすことになってしまった・・・わけです。そして、とうとう妖力も底をつきかけたので、わたくし、一計を案じ、なけなしの力を使って、朱音殿を綾音様に合わせることにしたのでございます」
「え?それってまさか・・・」
私は佐那を見て、そして、その視線をダリに向ける。そして、また佐那に。その視線に気づいたのか、佐那がテーブルに身を乗り出して勢い込む。
「・・・あ!そうですね!!わたくしがダリ様とまぐわえば妖力の補給はいっぱつ・・・」
「ダメ!!」

台詞の途中で私が強い口調で割り込んだので、佐那の言葉はしりすぼみになってしまう。もちろんダメだ。ダリと佐那が・・・なんて、ぜーったいに、嫌!

私の剣幕に押されたのか、佐那がちょこんと椅子に座り直す。ダリはその横に座ってはいるものの、極力私たちの方を見ないようにしている感じだ。

何この、三角関係の修羅場みたいなワンシーン!

先程の嫉妬心がまたしてもメラメラと燃え上がってきてしまう。
10秒ほどの、なんとも言えない沈黙が場に流れる。その沈黙を破ったのはやっぱり佐那だった。

「あ・・・いや・・・えっと、そもそも、ダリ様とまぐわうというのは、わたくしの見込みには入っていなかったわけで・・・」

たしかにそうだ。佐那はダリではなく、最初、私を目指してきたと言っていた。だったら、私が佐那と・・・?

ちょっと考えて変な想像をしそうになってしまう。慌てて頭を振って邪念を追い出す。た、多分、そういう意味じゃない・・・よね?
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