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天狐あやかし秘譚
第100章 死中求活(しちゅうきゅうかつ)
その声に驚き、もう一度獣の方に目をやる。それがビクリと身体を揺らし、ずるずると身体を起こそうとしているところだった。全身から流れたどす黒い血液がまるで意思を持った生き物のように、じゅるじゅるとその傷口に這い戻っていく。

さ・・・再生している!?
まずい!もう一度術を!

慌てて石釘のケースを取り出そうとしたとき、顔を起こしかけていた獣が口をすぼめてプッと何かを吹き出した。それは牙のような白い破片だった。破片が私の手に命中し、その衝撃で私はケースを手放してしまう。

「二度もそんな手に引っかからぬよ・・・」

完全に復活した獣が白銀の目を歪め、にやりと笑う。ケースを取ろうと手を伸ばすが、再び発射された牙により、ケースが更に弾き飛ばされてしまう。

「それがなければ何もできぬようだな・・・」

先程の戦いの恐怖で、まだ腰が抜けたようになってしまっている私に、獣の妖怪がにじり寄る。ものすごい臭気の吐息が顔にかかるが、私は身動きをすることすらできなかった。

まずい・・・このままじゃ・・・

なんとか体を動かそうと身をよじろうとするが、やはり手も足もガタガタと震えて力が入らない。目の前の獣から感じる重圧のせいで、息すらできない。ダリを呼ぼうにも、声を発することができないのだ。

涙が、ボロリと零れてきた。

お腹の中では佐那姫がぐるぐると動き回っているのがわかるが、彼女とて、妖力が尽きかけている身、どうすることもできないようだった。

大きく口を開いた獣が迫ってくる。怖い・・・怖いのだが・・・。これまでの戦いの中、土御門も瀬良も、宝生前もそしてダリも・・・どんなに強い敵が相手でも、決して目を逸らしてなんかいなかった。だからせめて私も!

キッといやらしい笑みを浮かべる妖魔を睨みつけてやる。
ダリだったら、ダリだったらあんたなんか!!

「逃げぬならな・・・喰ろうてやろうぞ・・・」

がああああ・・・

声とも唸りともつかない不気味な音を立てながら獣がゆっくりと襲いかかってくる。

もうダメ!

そう思った時、ピカッと周囲が一瞬明るくなった。

「ぐうぅう!!」

獣がその光に怯み、後ずさる。

ピカっ!!

もう一度光ると、獣はそのまま後ろに飛び退き、闇の中に紛れていった。

「早く!!」
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