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天狐あやかし秘譚
第100章 死中求活(しちゅうきゅうかつ)
後ろから女の子の声がする。ぐいっと腕を引っ張られ、その手の温かさのせいか、私の身体になんとか力が入るようになった。

「早く逃げよう!」

見ると、そこには高校生くらいの女の子がいた。スマホを片手に、私の手を引っ張っていた。しかし・・・。
私は背後に倒れている母の方をちらりと見る。女の子もその視線に気づいてくれたのか、闇に向かってもう一度フラッシュを焚くと、私を母の方に押しやった。

どうやら、あの獣、強い光が弱点のようで、女の子が放つスマホのフラッシュを怖がっているようだった。

「今のうちに!」

その子が油断なくスマホを構えている背後で、私は母を抱き起こそうと駆け寄る。母は外傷こそないが、気を失っているようだった。目を覚まさせようと揺すったり叩いたりしたのだが、もしかしてあの獣になにかされたのかもしれない。一向に目を覚ます気配がなかった。

「早く!」

黒い獣がのそりと木立から出てこようとしては、フラッシュを炊く、ということを繰り返していた女の子が悲鳴に似た声を上げる。

ま、まずい、このままじゃ・・・
一瞬、母を引きずろうかとも思ったが、少し引っ張ってみて、無理だと悟る。完全に脱力した人間、しかも地面にべったり寝転んでいる人のなんと重いことか・・・。これを引きずってあの獣から逃げるなんて、とてもじゃないけど無理だった。

こ・・・こうなったら・・・。

私はお腹の中の佐那に声を掛ける。

「ねえ、佐那!私も母と同じ力、あるんだよね?その力、今だけでもお母さんより強くできない?」

え・・・っと、お腹の中の佐那が凍りつくような反応をする。

「だから!母に引き寄せられているあの獣を、私に惹きつけることはできないの?」

そう、ダリと一緒に魑魅達を退治したときのように、せめて私があの獣を引き付ければ、母とこの女の子のふたりは助けることができる。

そ・・・それは・・・

佐那の躊躇がすべてを物語る。
可能なのだ。
それを悟ると、私はお腹の中の佐那に向かって少し強めに言う。

「お願い!佐那・・・手を貸して!!」

でも・・・

なおも躊躇する佐那姫。それに対して私は、なるべく落ち着いた風を装い、笑ってみせる。

「だ、大丈夫よ・・・私だって、陰陽寮の一員・・・負ける勝負なんて・・・しないわよ」
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