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天狐あやかし秘譚
第101章 純粋一途(じゅんすいいちず)
☆☆☆
それからというもの、私は、危機から救ってくれた天狐様に頼み込んで、その眷属としてお仕えさせていただくことにした。天狐様はやや迷惑そうにしたものの、私を突き放すことは決してなかった。

すぐに分かったことだが、天狐様の神通力は、私のそれとは比べ物にならないほどだった。その威力は天に届き、地を揺るがすほどであり、神として周囲の里人から崇められてすらいた。実際、天狐様は自身がお住まいの山々を数多のあやかしから守っており、それはそこに住む人間にさえも恩恵をもたらしていたのだ。

里人は彼を恐れ、そして敬っていた。
社を建て、宮司を配し、供え物をしていた。

時折、里人の願いが私にも聞こえてくることがあった。

『天狐様、今年が豊作でありますように』
『天狐様、旅にゆく我が子をお守りください』
『天狐様・・・』
『天狐様』

これほどまでに畏れ、敬われている天狐様を、私は誇らしく思い、お側に仕えられることを、無上の喜びと感じていた。おそらく天狐様は自身の神通力で大抵のことは成し遂げてしまわれるのだが、私が人間の官女や巫女のように仕えるのを許してくれていた。

なので、私は朝には水を汲み、朝餉を用意し、夕には夕餉の準備をし、床を設えた。暑いときには扇で風を送り、寒い朝には火を熾した。とにかく、天狐様が仰ることは、何でも叶えたいと思ったのだ。

そんなある時、私はふと気になって尋ねてみた。

『天狐様のお名はなんと申されるのですか?』

しかし、彼は首を振るばかりだった。彼もまた名を持たなかったのだ。
それを聞いて私は、胸が苦しくなった。

これほどの力を持ち、これほど人々や動物や山々から敬われる程の偉大なお方なのに・・・名がないとは。

誰にも名を呼ばれないで息絶えようとした時の、あの恐怖を思い出して私は身震いをした。
だから、私はかしづいて言ったのだ。

『ご無礼であればおっしゃってくださいませ。
 名を・・・天狐様に名をつけさせていただきとうございます』

天狐様は優しく微笑んだ。

『主は・・・どのような名が良いと?』
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