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天狐あやかし秘譚
第101章 純粋一途(じゅんすいいちず)
どのような・・・そう問われて、私ははたと考え込んでしまった。
当時、人々は天狐様のことを様々に呼び習わしていた。

ある人は大和の神の名で『宇迦之御魂神(ウカノミタマノカミ)』と言うこともあった。ある人は仏として『天狐権現』と称する者もいた。また真言を唱える者からは『荼枳尼天(ダキニテン)』と呼ばれてもいた。

『大和の神の名は長うございます。権現などとは天狐様に似つかわしくない・・・荼枳尼天はそも海の向こうの神の名にございます・・・』
私は迷ってしまっていた。そんな私を見て、天狐様は優しく微笑んでいた。

『主が呼びやすい名で良いよ』

そう言われた私は、三日三晩、頭を捻った。
陽の光を仰ぎ、風に耳を澄ませ、湖にさざめく波を見渡し、月の光を身に浴びて、星の音を聞いた。

『良い名は浮かんだか?』
三日目に天狐様に問われた時、私はこう答えた。

『ダリ様・・・ではいかがでしょう』
天狐様は、口の中でしばらく『ダリ・・・ダリ・・・』と唱えるようにおっしゃっていた。そして、しばらくして、私のもとに寄り、かしずく私の頭にその大きな手をお置きになった。

『良い名じゃ・・・。佐那姫よ』

さ・・・な・・・ひ・・・め?

一瞬、私はきょとんとしていたと思う。それが私の名であると解るのに、少しだけ時間がかかった。しかし、すぐにじんわりと、その実感が胸に降りてくる。降りてくると胸の内が熱くなって、身体が震えて・・・そして、涙が出た。

佐那姫・・・佐那姫・・・

胸の内で何度も繰り返す。
あのお方の優しい声で、何度も、何度も・・・

思い出していた。
誰もいない穴蔵でひとり丸くなって眠っていたことを。
人に追いやられ、石を投げられ、『野狐め!』と蔑まれたことを。
ひとり夜の星を眺め、ひょうひょうと胸の内を風が通る感覚に震えていたことを。

私・・・私の名・・・私・・・佐那・・・姫・・・

そして、ぼろぼろ、ぼろぼろと両の目からとめどなくこぼれる涙は止まることがなかった。
ついに私は嗚咽を漏らし、大声で泣き出してしまった。

『いかがした、佐那姫』
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