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天狐あやかし秘譚
第12章 鬼哭啾啾(きこくしゅうしゅう)
「ぐああああ!!!」

稲光のような閃光が彼女の周りに走る。その光が体を覆い、苛む。

お願い・・・変調よ・・・鎮まって・・・。

「があああ!!!」

獣のような咆哮が上がる。稲妻が弾け、南側の金符がボロボロと崩れ落ちた。

嘘・・・七星辰クラスの結界術が・・・!?

「ゆ・・・る・・・さな・・・い」

更に佳苗はひとつ、ふたつと身悶えする。その度に北側、西側の金符に雷光が走り、ひび割れ、崩れ落ちる。

怨嗟が強すぎる・・・。

「敷島さん!」
扉の外に待機していた陰陽生(おんみょうしょう)が物音を聞きつけて扉を開けて入ってきた。
「ダメ!来ちゃ!・・・お願い!増援を・・・!私じゃ、もう押さえられえない!」
わかりました、と陰陽生は走り去る。

ただ、増援が来るまで多分もたない。こんなに激しい怒り・・・いったい、あなた何をされたの?

佳苗の咆哮とともに、最後の金符が縦に裂けた。彼女が中空を掴むように手を伸ばす。その瞬間、結界が弾け、激しい衝撃が敷島を病室の壁に叩きつける。

がはあ・・・

強烈に叩きつけられたため、一瞬息ができなくなる。戦闘訓練を受けているとは言え、基本結界専門の祭部衆である。実戦経験はさほどなく、突然の衝撃に対して受け身など取りようもない。

ほんの一瞬、意識が途切れる。その隙をついて、バリン!とガラスが割れる音がした。
しまった・・・。

うっすら目を開けると、割れたガラス、たなびくカーテンが目に映った。
そして、先程までベッドにいた河西佳苗の姿は見えなくなっていた。

敷島はスマホを取り出し、電話をかける。相手方は呼び出し音二回ですぐに通話に応じた。
「すいません・・・大鹿島様・・・。河西佳苗が・・・逃げました」
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