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天狐あやかし秘譚
第15章 進退両難(しんたいりょうなん)
きゃははははは!
 きゃはははははは!

厭魅の狂った笑いが響く。呼応するように、暗闇の洞が大きく広がった。それは闇を孕み、まるで蠢動するかのように、妖気を溢れかえらせる。

「行け!」
土御門の放った光を纏い、ダリが槍を構えて突進する。土御門の術とダリの身体が一つとなり、闇の洞にぶつかっていった。最初は押され気味だったダリだったが、槍に力を込めると徐々に闇の塊を押し返し始めた。

「そのまま・・・行け!天狐!押し戻せぇ!!!」
土御門が更に将軍剣に霊力を込める。
このままなら・・・行ける!

「仲間、たーくさん殺しちゃったのねぇ?
 でも大丈夫!また、いーっぱい、呼んでくるからぁあ!
 だって、この世界には、男に恨みのある女なんて、」

闇の中、にっと河西が、赤く笑った。

「星の数ほどいるんだから」

メリリっと空間が音を立てて軋む。鬼道の周辺の空間にヒビが入る。
同時に、穿たれた暗闇の洞穴から、無数の赤い瞳が覗いた。

「なんや・・・ちょい待ち・・・そりゃあかんやろ!」

空間が破裂し、爆発するように数万の女怪が吹き出す。ライブラリーの全ての窓を破り一気に外に溢れ出す。

「ぐあああああ!!!」
土御門とダリが放った術ごとはねのけるほどの大量の女怪の奔流。

「行け・・・術者・・・。」
土御門の首根っこがなにかに押さえられ、そのままものすごい勢いで外に投げ飛ばされる。
「なんやあああ!!!!」
ダリのものすごい膂力でふっとばされながらも、たしかに土御門の耳には彼が最後に呟くようにして言った言葉が聞こえた。

『綾音を・・・連れてきてくれ』

と言っていた。
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