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天狐あやかし秘譚
第17章 大声疾呼(たいせいしっこ)
河西さんは、このまま鬼道に飛び込んで、死のうとしている。そうだ、彼女は元々、線路に飛び降りようとしていたではないか。死のうとしていたではないか。

「ダメええ!!!」
身体が、ひとりでに動いていた。私は大声で叫び、鬼道に向けて走っていた。
もしも、もしも、私が考えたとおりだとしたら、あなたは、あなたは・・・。

自分を騙した、自分を犯した人を、それでも、そんな人からでも愛されたいと願って・・・。
それで、あんなにも絶望的な顔をしていたの?

いけない・・・そんな顔したまま、死んだりしないで!
鬼道になんか、堕ちないで!!

河西さんが伸ばした手を黒い女怪の手の一本が掴む。
でも、私も間に合った。河西さんの胴体にタックルするようにしがみつく。

!?
驚いたように私を見る河西さん。その女怪になりかかった赤い目から、一筋、涙が流れたように見えた。

「行かないで!行くなあああ!!!」
私は絶叫していた。
「な・・・んで?」
河西さんの目が、右目だけ女怪のそれから通常の人間の黒い目に変わっていた。

だって、私とあなたの違いは、出会ったのが誰かという、その一点だけ。
愛されたかった、その思いは・・・同じじゃない!

「話そう・・・教えて、あなたのこと・・・一人で、独りで・・・行っちゃわないで!」
だから・・・だから!

「ダリ!お願い!鬼道を壊して!女怪を祓って!!河西さんを・・・河西さんを救って!!!」

私の声を聞いて、槍に力を込め続けるダリが薄く笑った。

「承知」

槍の穂先が一層の光を放つ。

ひぎゃあああああ
 ぎゃあああああああ

その光に押され、気味の悪い声をあげながら鬼道から溢れた女怪の手が崩れた。
そして、最後の鬼道の欠片が、ボロリと崩れて、消えた。

周囲の空間がふわっと軽くなる。先程までの禍々しい妖気が消え失せ、嘘のような静寂に包まれた。
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