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天狐あやかし秘譚
第26章 往古来今(おうこらいこん)
そう・・・そのまま!そのまま・・・愛しい人を、ここへ!!
風よ!どうか・・・どうかそのまま!!

清延様と海子が舞い上げられ、くるくると中空を舞っている。そして、とうとう、頭上の空まで戻ってきた。

「下ろして!」

『私』は叫ぶ。
やっと・・・やっと来てくれる・・・。

刹那

ふわっと、風が、凪いだ。

まだ、あの人は遥か空の上にいるのに・・・

グシャ

あまりにもあっけなかった。
嫌な音を立てて、何かが『私』の直ぐ目の前に落ちてくる。

顔に、泥のようなモノが飛んできた。着物に、何かが跳ね、へばりつく。

「ああ・・・あ・・ああ・・・あああああ!!!!!」

いつしか、雨は止んでいた。月が雲間から顔を出し、『私』は青い光の中、自分の姿を見た。
手が・・・ベッタリと濡れている。黒い・・・何か?顔を触ると、同じように顔にもなにか滑った泥水のようなものが跳ねていた。

顔に手をやり、手を見た・・・。

これは・・・血だ・・・『私』の顔にベッタリと跳ねてきたものは。
着物に目を移す。なんだ、このぶよぶよとした得体のしれないものは。
違う・・・目玉だ・・・目玉だ・・・この、着物にこびりついたモノ・・・

あの人の・・・あの方の・・・ああ・・ああ!!!!

膝から崩れ落ち、叫び続けた。
『私』が、祈ったから・・・?領巾に、願ったから?

そんな・・・そんな・・・

足元に出来た水たまりに、自分の顔が映る。

口は耳元まで裂け、血に塗れていた。
眉間には深いシワが寄り、今にも目の前の人間を食い殺さんとするような顔だった。

まるで・・鬼・・・
これが・・・『私』・・・?

醜い。
醜い。
醜い。

当たり前だ・・・。こんな顔では、こんな姿では、あの人が逃げるのは当然だった・・・。

『私』が殺した・・・『私』、『私』が・・・!
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