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天狐あやかし秘譚
第3章 【第2話 狂骨】夢幻泡影(むげんほうよう)

「おとうさんか、おかあさんは?」
女の子は顔を伏せたまま黙って首をふる。
「おうちは近いの?」
なおも尋ねてみるが、女の子はふるふるとまた首を振るばかりだった。
うーん・・・困ったな。お巡りさんを呼んできたほうがいいのかな?
かと言って、この子をこのまま放置していくのも・・・。
110番をしようか?こんなことでしていいのかな?でも、それしかないか・・・。
「ちょっと、待っててね」
少し離れたところで電話しようと踵を返すと、ぐっと服の裾を掴まれた感触がある。振り返ると、先程の女の子が私の服を小さな手で掴んでいた。
困ったな・・・。
ここで、私は改めて彼女を見た。白いジャンパースカートに赤い模様・・・
いや、模様じゃ・・・ない?
え?!
よく見ると、模様と思ったのは飛び散った血だった。夕日に照らされていたので色味がよくわからないが、服の模様たるにはふさわしくない、赤黒い血の色だった。
気づいた瞬間、その子が顔を上げる。
「ひっ!」
思わず、声上げ、数歩後ずさる。
目が・・・なかった。
目があるべきところには眼球がえぐれ、ポッカリと穴が空いている。
右の頬は不自然に腫れ上がり、痛々しかった。
よく見ると両の耳からは血がダラダラと流れ、顎から下に滴っていた。
「あう・・・ぐあ・・い・・」
何か口に出して言おうとしているが、言葉にならない。少し開いた口の中には歯がなかった。まるですべての歯を引き抜かれているようだった。
明らかに、この世の者ではない、何か。
先日の曲がり神を見たときと同じような衝撃を受ける。
と、とにかく離れなきゃ・・・。
思うのだが、足がうまく動かない。恐怖で足がすくんでいる。
があ・・・うぐぅ・・
声にならない呻きのようなものをあげ、女の子がベンチから立ち上がり、ゆっくりこっちに歩いてくる。腕を伸ばし、まるで何かを求めるように、フラフラと近づいてきた。
逃げなきゃ・・・思うが、ガタガタと足が震えて力が入らない。何となれば腰が抜けそうだ。
先程から、子供のようなその『何か』は口をもぐもぐさせながら、声を発している。
「あぐぅ・・・いた・・ぐあ・・・」
その子の手が私に触れんばかりになる。
た・・・助けて・・・助けて・・・!
「ダリ!!!!」
私は何故か、あの天狐の名を大声で叫んでいた。
女の子は顔を伏せたまま黙って首をふる。
「おうちは近いの?」
なおも尋ねてみるが、女の子はふるふるとまた首を振るばかりだった。
うーん・・・困ったな。お巡りさんを呼んできたほうがいいのかな?
かと言って、この子をこのまま放置していくのも・・・。
110番をしようか?こんなことでしていいのかな?でも、それしかないか・・・。
「ちょっと、待っててね」
少し離れたところで電話しようと踵を返すと、ぐっと服の裾を掴まれた感触がある。振り返ると、先程の女の子が私の服を小さな手で掴んでいた。
困ったな・・・。
ここで、私は改めて彼女を見た。白いジャンパースカートに赤い模様・・・
いや、模様じゃ・・・ない?
え?!
よく見ると、模様と思ったのは飛び散った血だった。夕日に照らされていたので色味がよくわからないが、服の模様たるにはふさわしくない、赤黒い血の色だった。
気づいた瞬間、その子が顔を上げる。
「ひっ!」
思わず、声上げ、数歩後ずさる。
目が・・・なかった。
目があるべきところには眼球がえぐれ、ポッカリと穴が空いている。
右の頬は不自然に腫れ上がり、痛々しかった。
よく見ると両の耳からは血がダラダラと流れ、顎から下に滴っていた。
「あう・・・ぐあ・・い・・」
何か口に出して言おうとしているが、言葉にならない。少し開いた口の中には歯がなかった。まるですべての歯を引き抜かれているようだった。
明らかに、この世の者ではない、何か。
先日の曲がり神を見たときと同じような衝撃を受ける。
と、とにかく離れなきゃ・・・。
思うのだが、足がうまく動かない。恐怖で足がすくんでいる。
があ・・・うぐぅ・・
声にならない呻きのようなものをあげ、女の子がベンチから立ち上がり、ゆっくりこっちに歩いてくる。腕を伸ばし、まるで何かを求めるように、フラフラと近づいてきた。
逃げなきゃ・・・思うが、ガタガタと足が震えて力が入らない。何となれば腰が抜けそうだ。
先程から、子供のようなその『何か』は口をもぐもぐさせながら、声を発している。
「あぐぅ・・・いた・・ぐあ・・・」
その子の手が私に触れんばかりになる。
た・・・助けて・・・助けて・・・!
「ダリ!!!!」
私は何故か、あの天狐の名を大声で叫んでいた。

