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天狐あやかし秘譚
第38章 応病与薬(おうびょうよやく)
☆☆☆
出張の準備と手続きに半日がかかり、私達が京都入りしたのは、オンライン会議の次の日の午後、土御門達が中類村に最初に行った日から数えてすでに1週間あまりが経過していた。これでも急いだほうだったが、土御門としてはもっと急いでほしかったようだ。

「天狐はんに抱えて飛んできてもろたらよかったのに」

などと無茶なことを仰っていた。多分、それは可能なのだろうけど、私の身体がもたないと思う。

まあ、品々物之比礼を見失ったら大変だという土御門の気持はよく分かる。あれの危険性は私が一番良く知っている・・・というか、身をもって体験していた。

「事は急を要するんよ。今、中類村、閉鎖してん」

え?と私が呆けた顔をすると、土御門が、『はあ』、とわざとらしくため息をついて首を大きく振ってみせた。なんか、バカにされたみたいでムカつく!!

「鈍いなあ、綾音はん・・・。赤咬病は性病みたいなもんやで?エッチして伝染るんや。だったら設楽はどこで伝染ったいうねん?」

あ、そうか・・・。設楽さんは中類村で誰かと・・・エッチしたんだ。で、その誰かは赤咬病のキャリアで・・・。

「性欲つよなっている・・・多分おなごやな、が1週間も小さい村で野放しや。あちこち感染者が出ててもおかしない。誰が感染してるかわからん以上、村人の出入りをさせんことしかできん」

赤咬病は独特の背中の赤みが出るまで、特有の症状がない。更に、検査で検出することもできない。しかも、その赤みが出るのには、感染してから数日を要するという。
赤みが出る前から性欲の増大及び感染性はあるので、全く症状がないように見える人でも、村の外にふらりと出て、あちこち移動しながらエッチしてたら・・・。下手したら赤咬病が世界的にパンデミックを起こしてしまうかもしれない。

「かとって、アオギリソウの製剤もすぐには調達できない。そうなれば、とりあえず封鎖してしまうしかない。中類村のもんには悪いけど、問題の病気が『赤咬病』なんやと判明するまでの時間が経ちすぎてもうた」
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