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天狐あやかし秘譚
第40章 一殺多生(いっさつたしょう)
私達の周囲にある藪が一斉に葉擦れの音を鳴らす。
「しもうた、こいつ、おとりやったんか!」
ざっと周囲から10人程度の人間が飛び出してきた。その誰もが、先程の男と同じように、目はギラつき口から粘度の高いよだれを撒き散らしている。まるで飢えた獣のようだ。そして、何よりも動きが人間離れしている。

右側から飛び出してきたのは、年齢的には60は超えていそうなのに、2メートル近く跳躍をし、地面に足をついた瞬間、両足で更にもう一度大ジャンプを繰り出した。そのまま私達の頭上を飛び越え、左側の大木を足で蹴りつけ、猛然としたスピードで瀬良に突っ込んでくる。

忍者かよ!

瀬良も最初こそ目を剥いて驚いていたが、さすが祓衆の陰陽師、すぐに気を取り直し、身構えていた。左上方から突っ込んでくる男を最小限の動きでかわすと、その脇腹に肘鉄を食らわせる。

「ぐえ!」

妙な声を上げ、男性は地面を転がるゴロゴロと転がっていった。しかし、大したダメージではないようで、すぐに立ち上がって襲いかかってくる。

もちろん、敵はこの男性一人ではない。周囲の藪から同じような超人的な動きをする人間がわんさと飛び出してきたのだ。私に襲いかかってくる奴らはダリが片手で払いのけるようにしてくれるので助かるが、土御門や瀬良はだいぶ苦戦しているようだ。

多分、相手は赤咬病に侵されているとは言え、ただの人間だ。術を使って・・・というわけにはいかないのだろう。それが証拠に、ふたりとも先程から体術を駆使して戦っていた。

「綾音・・・こやつら・・・吹き飛ばしても・・・」
「ダメよ」

当然、ダリが本気を出すのもダメだ。
いや、でも・・・

私はこの間の浮内島での事件を思い出していた。あの時、確かダリは・・・?

「ダリ!この人たちを気絶させることはできる?」

大ジャンプの末、真上からの落下攻撃を仕掛けようとしてきた高校生くらいの女子を軽く払いのけると、ダリは薄く笑った。

「もちろん、できる・・・。ただ・・・」

ただ・・・の先は言わなくともわかる。
あのときもそうだった。・・・契・・・でしょ!?

早い話がエッチの約束だ。
こんな序盤で使ってしまっていいのかと思うが・・・まあ、ピンチはピンチ、仕方ない。

「わ・・・分かったわよ・・・す・・・するから」
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