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天狐あやかし秘譚
第44章 捲土重来(けんどちょうらい)

そして、颯馬の横の空間が縦に裂けるように割れ、一人の見知らぬ男がのそりと姿を現す。
さっき響いたのは、この男の声のようだった。男の姿を見て、颯馬はビクリとして真白の首に掛けかけた足玉をぎゅっとその胸に抱く。
中肉中背、顔貌も造作は整っている。柔らかな短い髪の毛、どこにでもあるようなオレンジを基調としたチェックのシャツに、オフホワイトのチノパンを身に着けている。別にどこがどうということはないが、何か妙な感じだ。
そう、強いて言えば・・・特徴がなさすぎる。
それが強烈な違和感をもたらしていた。
そして、私にはもうひとつ引っかかっていることがあった。
あの男が出てきた、あの裂け目。空間に突如できる『穴』・・・どこかで見たことが・・・?
「お・・・やか・・・」
颯馬が声を震わせる。
「何やお前!」
土御門も突然現れた妙な男に向かって剣を構える。
私の横で瀬良も手印を結び臨戦態勢だ。
「はじめましてですね」
男は大学のキャンパスで後輩に会った先輩みたいな話し方をする。今漂っている緊張感と相反する全く場違いな雰囲気を醸し出している。
にこりと笑って言った。
「僕の名前は『ひぐれ』・・・緋色の『緋』に、紅で、『緋紅』・・・。イタツキとシラクモの父親で・・・」
瞬間、ぶわっと男を中心に禍々しい何かが吹き上がった。
「君等、不遜な『大和の民』の・・・殲滅者・・・ですよ」
その禍々しい瘴気を受けて思い出した。ダリもその全身を総毛立たせるほど緊張していた。既に右手には既に最強の降魔の槍である『天魔反戈(あまのかえしのほこ)』が握られている。
「あやつ・・・鬼道を渡ってきた・・・!」
そう、彼が出てきた裂け目、今、禍々しい瘴気を放っているそれが、かつて女怪を溢れさせた鬼道であると、私とダリは同時に気づいたのだった。
さっき響いたのは、この男の声のようだった。男の姿を見て、颯馬はビクリとして真白の首に掛けかけた足玉をぎゅっとその胸に抱く。
中肉中背、顔貌も造作は整っている。柔らかな短い髪の毛、どこにでもあるようなオレンジを基調としたチェックのシャツに、オフホワイトのチノパンを身に着けている。別にどこがどうということはないが、何か妙な感じだ。
そう、強いて言えば・・・特徴がなさすぎる。
それが強烈な違和感をもたらしていた。
そして、私にはもうひとつ引っかかっていることがあった。
あの男が出てきた、あの裂け目。空間に突如できる『穴』・・・どこかで見たことが・・・?
「お・・・やか・・・」
颯馬が声を震わせる。
「何やお前!」
土御門も突然現れた妙な男に向かって剣を構える。
私の横で瀬良も手印を結び臨戦態勢だ。
「はじめましてですね」
男は大学のキャンパスで後輩に会った先輩みたいな話し方をする。今漂っている緊張感と相反する全く場違いな雰囲気を醸し出している。
にこりと笑って言った。
「僕の名前は『ひぐれ』・・・緋色の『緋』に、紅で、『緋紅』・・・。イタツキとシラクモの父親で・・・」
瞬間、ぶわっと男を中心に禍々しい何かが吹き上がった。
「君等、不遜な『大和の民』の・・・殲滅者・・・ですよ」
その禍々しい瘴気を受けて思い出した。ダリもその全身を総毛立たせるほど緊張していた。既に右手には既に最強の降魔の槍である『天魔反戈(あまのかえしのほこ)』が握られている。
「あやつ・・・鬼道を渡ってきた・・・!」
そう、彼が出てきた裂け目、今、禍々しい瘴気を放っているそれが、かつて女怪を溢れさせた鬼道であると、私とダリは同時に気づいたのだった。

