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天狐あやかし秘譚
第47章 猪突猛進(ちょとつもうしん)
「土御門が封印をした・・・男の方は、自分でその封印に飛び込んでいった」
ダリが二人を見上げて言った。

「真白さんの姿が・・・」
真白の姿は、多少皮膚に爛れは残っているが、ほとんどもとの人間の姿に戻っていた。美しい顔立ち、透き通るような肌と漆黒の髪。豊かな髪がまるで水の中を漂うように水晶の中に封じられていた。

ダリが言うには、おそらく土御門が使った蛇之麁正の権能だろうとのことだった。この世で唯一、疱瘡神を封滅する剣。それを媒介に術を放ったことで、封印される直前に真白は人間としての姿を取り戻すことができたのではないか、と。

「結局、二人を助けることは出来なかった・・・」
私はポツリと呟いた。

そう、この二人は、ともに相手のために自分の命をなげうとうとしていた。
互いに・・・相手を一番に思っていた。
なのに、そのどちらも、救うことができなかった。

「泣いてるのか?」
ちょっと、景色がぼやけた。
私が泣いたってしょうがないことだっていうのは分かっているけど、なんだか、彼ら二人の必死さを思うと、胸が苦しくてたまらなくなった。

「嘆くことはない。
 こやつらは主に救われた。
 主は、胸を・・・張っていい」

ダリが、優しく言ってくれる。

「救った?・・・そうかな・・・?」
「ああ・・・そうだ
 少なくとも女の方は邪神になる未来を免れたし、
 この男は愛する者と一緒に居続けることができた。
 人が到達できる中では最良の結末だ・・・
 お前がいなければ、こうはならなかった」

本当は、二人が笑って生きられる未来が良かった。
どちらかしか助からず、互いに自分を犠牲にする、なんてことを考えなくていい世界。
普通に生きて、普通に好きあって、互いの思いをゆっくりとなぞっていく。
なんで、この二人にはそういう未来が用意されてなかったんだろう。

ダリは、ああ言ってくれたけど、やっぱり私は悲しかった。

ただ・・・、オレンジの夕闇に沈み始めた森の中。時間が止まったような水晶の海に沈んだ二人の顔が、少しだけ満足そうに見えたのが、唯一の救いだった。
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