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天狐あやかし秘譚
第53章 奇想天外(きそうてんがい)
さて、こんな事をしている内にあっという間に10分が過ぎていた。再び地下に戻り、暦部門の部屋を訪ね、高森さんに声を掛ける。

「はい!ご要望の資料は揃っています。どうぞ、御覧ください。まず、もっとも関連の深い文献についてはそちらに出しておきました。そして、これが全文献リストです」
出しておきました、と示されたテーブルを見るとダイニングテーブルほどの大きさの机の上に山のように古文書が積まれていた。試しにひとつ手にとって眺めてみたが、やっぱり古文書だ、ミミズののたくったような墨字が一面に書いてあり、全く読むことができなかった。

さらに文献リストを見てみると、びっしりと文献名が書かれた文書が、A4両面刷りで5枚も出力されていた。リストだけでこんなにあるの・・・?

私が絶望的な気持ちでリストと文献の山を見つめていると、高森さんが恐る恐る声をかけてくる。
「あのぉ・・・、差し出がましいとは思ったのですが、お調べの件『貧乏神の回向について』を私なりに簡単にまとめてみたレポートもあるのですが・・・ご入用でしょうか?」
示してくれたのは、A4両面1枚の資料だった。もちろん、パソコンで作ってあり、字も読めるし、内容も平易に書かれていた。

「もちろん!もちろん、そちらをいただければ!!」
私が一も二もなく承諾したのは言うまでもなかった。

「またのお越しをお待ちしていますね」
ニコっと笑って小さく手を振ってくれる高森さんに挨拶をし、私は暦部門を後にした。

しかし、ほんの十数分の間にこれだけの事を調べ上げ、まとめてしまうとは・・・さきほどは、『こっちの方が仕事として好み』とか思っていたが、私があそこに座っていても絶対にできない芸当だ。やはり、私には務まりそうにない。

陰陽寮の優秀なスタッフのお陰で、午後までかかるかもとか思っていた私の用事は、午前中であっという間に終わってしまったので、私はいったん綿貫亭に帰ることにした。実は今日の夕方もみゆきちゃん達を夕飯にご招待しているのだ。

用事が早く済んだおかげで夕飯の準備も思ったよりきちんとできた。そして、土門さんからの連絡を受けて、問題もひとつ解決した。

よかった、これで、少しは役に立つことができそうである。
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