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天狐あやかし秘譚
第55章 不立文字(ふりゅうもんじ)
☆☆☆
『私』は木の枝に腰掛けて、いつも彼女を見ていた。

その娘の家はとても裕福だった。父は大きな企業の役員を務めており、母は建築士として、事務所を構えていた。海外出張の多い父親は世界三か所に別荘を構え、春夏冬の長期休みには家族を連れて異国の地を訪れることが通例となっていた。

娘は、そんな家に生まれていた。

彼女は美貌に恵まれ、才知にも長けていた。学生時代から、多くの男性からの求愛を受け、引く手数多だった。

『私』にはキラキラとした縁の糸が彼女から幾重にも周囲に伸びているのが見えていた。彼女もまた、多くの人の子と同じように幸福になるたくさんの縁(えにし)を託されて生まれてきていた。

しかし・・・

ああ・・・また、切れてしまった。

中学1年生。懸命に勉強して入学した私立学校。隣の席になった子と、せっかく親友になりかけたのに、その子と繋がっていた縁の糸はぷつりと切れてしまった。

娘は良い子だった。決して悪い性格の持ち主ではない。ただ、人との縁を結ぶ力が弱かった。理由は、いくつかあるけれども、一番大きいのは、とにかく人に頼ることが苦手だということだ。

幼い頃から様々なことがあらかじめ用意され、困ったことがなかった。また、自分の力も優れていたことから、誰かに明確に頼ったこともなかった。

今回も、何でもこなしてしまう彼女に引け目を感じた友人の心が、次第、次第に離れてしまったことに起因していた。

『私』の胸はツキンと痛んだ。

高校生のとき、初めて同級生男子の告白を受け入れて、お付き合いを始めたけれども、結果は同じだった。

『君は僕を必要とはしていないんだね』

それが彼が娘に別れを告げた言葉だった。

これをきっかけに、娘は『自分は恋愛に向いていない』と思い始めてしまった。

大学生になり、ますますその傾向は強くなった。一年間の留学を経て、勉学にスポーツに勤しむ。そう、まさに、彼女は光り輝いていた。就職口も希望職種、大手の企業にすんなりと内定が決まった。人生は順調だった。しかし、彼女は心の底に孤独を抱えていた。

何か心に穴が空いているような苦しさを抱えたままだった。
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