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天狐あやかし秘譚
第59章 合縁奇縁(あいえんきえん)
男が一歩近づいてくる。私は涙を流して首を振ることしかできない。
「ああ・・・いやあ・・・いや・・・」
男が近づいてくるにつれて、そして、更に闇に目が慣れてくるにつれて、もう一つ分かったことがあった。

男は薄手のコートのようなものを着ているが、その下には何も身に着けていないのだ。隆々と張り出すように猛る真っ黒なペニスが目に映り、私はさらに恐怖に震えた。

今はいないが、彼氏がいたことはある。大学時代には何人かと性体験を持ったことももちろんあった。だけど、あれほど大きな『モノ』は見たことがなかった。

影が私に覆いかぶさってくる。それの生暖かい息が私の鼻先にかかる。たまらず顔を背けると、むき出しになった首筋をその舌がべろりと舐め上げたのを感じた。ぞわりとした悪寒が背中を駆け上る。

震えが止まらない・・・。イヤ!いやあ!!

心の中では叫ぶが、身体が全く言うことを聞かなかった。心臓はどくどくと脈打ち、異常な興奮で頭の中は真っ赤に染まっている。ついに、影の腕が私の服に手をかけた。

両腕でブラウスの襟元を無造作に握りしめると、そのまま左右に引き裂く。人間離れした膂力により、布がまるで紙切れのように引き裂かれていく。

「あ・・あああ・・・い・・あ・・」

次々に衣服が引き裂かれていくのを、私はただただ恐怖に震えながら呆然と見守ることしかできなかった。そして、ついに、下着も何もかも剥がれて、全裸にされてしまう。

「こ・・・で・・・ないよ・・・」

途切れ途切れの言葉だったが、不思議なことに私には何をいっているのか分かった。分かってしまった。こいつはこう言ったのだ。

『これでにげられないよ』
と。

とん、と肩を軽く押されただけで、私はその場に倒れ込んでしまう。恐怖で震える私の身体は、とうに逃げる力も意欲も失っていた。

はあぁ・・・

生暖かい息を吐きながら私の唇に真っ赤な口を寄せてくる。ぐちゅりと唇を吸い尽くすような嫌らしいキスだった。それと同時に影の腕が私の左の乳房を大きく握るように揉みしだいてくる。左手で首を固定され、身体の上に覆いかぶさられてしまい、私はさらに身体の自由を奪われてしまった。

いや・・・いや・・・このままこんなものに犯されるなんて・・・

ぬりゅっと口腔内に軟体生物のような舌が侵入してくる。その気持ち悪さにまた背筋がぞわりと粟立つ。
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