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天狐あやかし秘譚
第62章 【第15話 黄泉平坂】不知不覚(ふちふかく)

可奈子はこの施設のスタッフとしては『心理担当』である。子どもたちの生活の世話をするのはもとより、子どもたちにカウンセリングや心理治療面接を行ってもいた。言葉が話せない麻衣に対しては、言葉を使う『カウンセリング』は無効である。なので、遊びを通した心理治療法である『プレイセラピー』が用いられていた。
可奈子が差し出してきたのは、画用紙にぐるぐると赤と黒のクレヨンでたくさんの線が乱雑に描かれている、そんな絵だった。
「なんか、ひどい絵だな・・・」
「ええ、トラウマを抱えた子どもの典型的な絵です・・・すごく救いがなくて、見ているだけで苦しくなります」
ん?と緒方が声を上げる。
「竹内さん、真ん中のこれ・・・なんでしょうか?」
絵の中央を指差す。赤と黒のクレヨンでぐるぐると乱雑に描かれた線。その線を台風にたとえると、丁度、台風の目の部分に当たるところに、黄色と緑の小さな何かが描かれていた。
「さあ、なんでしょう」
「全部が全部、赤と黒、ではないというのは良いことなんじゃないか?」
「そう・・・ですね」
可奈子の返事は歯切れが悪かった。
緒方はその部分になにかの希望を感じたようだが、可奈子としてはどうにも禍々しいような印象しか持てなかったからだ。
見れば見るほど、何か背筋が寒くなるような気がして、可奈子はブルッと震えた。緒方は考えすぎだと請け合った。
「まあ、可奈子さんの前で絵を描いた、ということは確かなのでしょう?少しずつ心をひらいているってことだと思いますよ」
まあ、そうなのかもしれない。
可奈子はもう一度絵を眺めてみた。
やっぱりこの中央の部分は、まるで、地獄の底からこちらを覗いている異形の目のように見える。そして、不思議なことに、昔の人が作った勾玉のようにも、見える気がした。
「とにかく、今日の当直、お願いしますよ。可奈子さんと、武田くんですよね?」
「ええ・・・」
なのはな園の職員は基本通いであるが、生活支援スタッフ2人と、事務方2人体制で当直をしている。本日の事務方の当直には可奈子が当たっていた。
つい1ヶ月ほど前にはそんなことを思わなかった可奈子であるが、一言も喋らず、無表情でひたすら不気味な絵を描き続ける麻衣のことを思うと、なんとなく夜、ここに残されるのが薄気味悪く感じてしまうのであった。
可奈子が差し出してきたのは、画用紙にぐるぐると赤と黒のクレヨンでたくさんの線が乱雑に描かれている、そんな絵だった。
「なんか、ひどい絵だな・・・」
「ええ、トラウマを抱えた子どもの典型的な絵です・・・すごく救いがなくて、見ているだけで苦しくなります」
ん?と緒方が声を上げる。
「竹内さん、真ん中のこれ・・・なんでしょうか?」
絵の中央を指差す。赤と黒のクレヨンでぐるぐると乱雑に描かれた線。その線を台風にたとえると、丁度、台風の目の部分に当たるところに、黄色と緑の小さな何かが描かれていた。
「さあ、なんでしょう」
「全部が全部、赤と黒、ではないというのは良いことなんじゃないか?」
「そう・・・ですね」
可奈子の返事は歯切れが悪かった。
緒方はその部分になにかの希望を感じたようだが、可奈子としてはどうにも禍々しいような印象しか持てなかったからだ。
見れば見るほど、何か背筋が寒くなるような気がして、可奈子はブルッと震えた。緒方は考えすぎだと請け合った。
「まあ、可奈子さんの前で絵を描いた、ということは確かなのでしょう?少しずつ心をひらいているってことだと思いますよ」
まあ、そうなのかもしれない。
可奈子はもう一度絵を眺めてみた。
やっぱりこの中央の部分は、まるで、地獄の底からこちらを覗いている異形の目のように見える。そして、不思議なことに、昔の人が作った勾玉のようにも、見える気がした。
「とにかく、今日の当直、お願いしますよ。可奈子さんと、武田くんですよね?」
「ええ・・・」
なのはな園の職員は基本通いであるが、生活支援スタッフ2人と、事務方2人体制で当直をしている。本日の事務方の当直には可奈子が当たっていた。
つい1ヶ月ほど前にはそんなことを思わなかった可奈子であるが、一言も喋らず、無表情でひたすら不気味な絵を描き続ける麻衣のことを思うと、なんとなく夜、ここに残されるのが薄気味悪く感じてしまうのであった。

