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天狐あやかし秘譚
第67章 危急存亡(ききゅうそんぼう)
私が片付けをしている間に、緋紅さんがお風呂に入る。彼は私に先に入るように言ったけれど、ここは私の部屋で、彼はお客様・・・だから、と言うと、「相変わらず綾音は生真面目だなぁ」と笑ってくれた。

洗い物が終わった。あ、そうだ、テーブルまだ拭いてないや。

「芝三郎・・・テーブルおね・・・」

言いかけて、はと気がつく。
芝三郎って・・・誰?振り向いて部屋を見ても、がらんとして誰かがいるわけでもない。風呂場から、緋紅さんがシャワーを使っている音が聞こえるだけだった。

何、言ってるんだろう?

気を取り直して、私は固く絞った布巾でテーブルを拭いた。
そんなことをしているうちに、緋紅さんが出てきて、私が代わってお風呂に入る。

今日・・・多分、いや、絶対、するから・・・。
ボディソープをよく泡立てて、いつもより念入りに体を洗う。お風呂で体を温めて、体を拭いてから、ボディケア。

デパートのコスメ売り場の美容員さんからのおすすめ。
『愛され肌』と銘打っていたシリーズだった。

乳液を薄く伸ばし、それからクリーム。デリケートゾーン専用のクリームというのがあるのも彼と付き合って初めて知った。
洗面所の鏡の前で全身をチェックする。

うん・・・大丈夫・・・かな?

いきなり裸で飛び出すなんてことはとてもできないので、これもこの日のために買い揃えてあったナイティを身につける。鏡の前でもう一回転。

おかしく・・・ないかな?

そっと、リビングを覗くと、同じくナイティを身につけた彼がダイニングテーブルでテレビを見ていた。待たせてしまっただろうか。

「おまたせ・・・緋紅さん」
声を掛けると、待ってないよ、といいつつ、テレビを消す。別に見たくもないテレビを見ているふりをしてくれていたのがよく分かる。これも、きっと私を急かさないための彼なりの心遣いなのだろうと思う。

ふわりと、彼の体温に包まれる。
「お風呂上がりの綾音はとてもいい匂いがする」
頭ひとつほど、私より大きい彼。こうして抱きしめられると、身体全部が包まれているようで、本当に安心する。くいっと優しく顎を上げられると、彼の目が本当に間近だ。

キスなんて何度もしてるじゃない・・・
そう思うのだが、やっぱりこんなふうにされると緊張してしまう。
実際、私の心臓はバクバクと激しく鼓動していた。
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