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人外に愛される【短編集】
第2章 カ タ バミ 様



その日の夜、涼介は鈴の部屋に来なかった。

まさかまだ家に帰っていないのか…。

鈴はチラッと時計を見た。






時間は20時30分。

いつもならとっくに涼介が鈴の部屋の前に来る時間を過ぎている。







鈴は怖かったけど、カーテンを開けて窓の外を見た。

街灯も無く、部屋から見える外は薄暗かった。

しかし見えないほどでは無い。







鈴の視界にフラッと影が横切った。

目を凝らしてみると、それは涼介で鈴の家を通り過ぎた。







(良かった、帰って来てた。)

今日はたまたま鈴の家に寄らないで帰るのだろう。

少し寂しかったが、時間も遅いししょうがないと思った。







せめてその背中が見えなくなるまで見送ろう。

そう思って鈴は小さくなる涼介の背中を見ていた。







だけど、涼介は途中で道から逸れた。

(え?そっちは涼ちゃんの家の方角じゃない…そっちは……。)

鈴の胸が痛いくらい鼓動が激しくなった。







涼介が道を変えて向かっているその先は……。

あの禁忌の森だった。







(ダメだよ涼ちゃん!!) 

何故、涼介がその方向に向かっていったか分からなかった。

だけどもうすぐ【カタバミ】様が現れる時間で、涼介のその行動は鈴を不安にさせた。






(あ…、見えなくなっちゃう…。)

どんどん森に向かって行き、影が見えなくなっていく涼介の背中に、鈴は拳を握った。







意を決して、鈴は窓の鍵を開けてスリッパのまま外に出た。

今ならまだ、【カタバミ】様が来る前に涼介に追い付けると思ったからだ。







「涼ちゃん!!」







鈴は走りずらいスリッパを引きずる様に、一生懸命に涼介の後を追った。



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