この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
人外に愛される【短編集】
第2章 カ タ バミ 様

その日の夜、涼介は鈴の部屋に来なかった。
まさかまだ家に帰っていないのか…。
鈴はチラッと時計を見た。
時間は20時30分。
いつもならとっくに涼介が鈴の部屋の前に来る時間を過ぎている。
鈴は怖かったけど、カーテンを開けて窓の外を見た。
街灯も無く、部屋から見える外は薄暗かった。
しかし見えないほどでは無い。
鈴の視界にフラッと影が横切った。
目を凝らしてみると、それは涼介で鈴の家を通り過ぎた。
(良かった、帰って来てた。)
今日はたまたま鈴の家に寄らないで帰るのだろう。
少し寂しかったが、時間も遅いししょうがないと思った。
せめてその背中が見えなくなるまで見送ろう。
そう思って鈴は小さくなる涼介の背中を見ていた。
だけど、涼介は途中で道から逸れた。
(え?そっちは涼ちゃんの家の方角じゃない…そっちは……。)
鈴の胸が痛いくらい鼓動が激しくなった。
涼介が道を変えて向かっているその先は……。
あの禁忌の森だった。
(ダメだよ涼ちゃん!!)
何故、涼介がその方向に向かっていったか分からなかった。
だけどもうすぐ【カタバミ】様が現れる時間で、涼介のその行動は鈴を不安にさせた。
(あ…、見えなくなっちゃう…。)
どんどん森に向かって行き、影が見えなくなっていく涼介の背中に、鈴は拳を握った。
意を決して、鈴は窓の鍵を開けてスリッパのまま外に出た。
今ならまだ、【カタバミ】様が来る前に涼介に追い付けると思ったからだ。
「涼ちゃん!!」
鈴は走りずらいスリッパを引きずる様に、一生懸命に涼介の後を追った。

