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第2章 旅の始まり

舎利殿の前に立つと、沙織は自然と足を止め、心の奥底に響く静けさを感じ取る。目の前にあるこの建物が刻む「歴史の重み」は、ただの古い建築物としての価値を超えて、人生そのものを考えさせる力を持っているかのようだった。

「盛者必衰、生者必滅、諸行無常…」――その言葉が頭をよぎる。御釈迦様ですら、この世に永遠の姿を留めることはできなかった。骨となり、なおも人々を救おうとする存在がここに祀られている。それは果たして、人々の傲慢ゆえの期待なのだろうか。あるいは、生者が己の未熟さを悟り、死者にすがることで得る安堵のようなものなのかもしれない。

沙織は、舎利殿を前にして自らの無力さを痛感していた。生きている間でさえ、自分の思い通りに事を運ぶことができないのに、死してなお何かを残すなどということが果たして可能なのだろうか。しかし、だからこそ、生きている間にやりたいことを果たさなければならない。肉体と精神がまだこの世にある今だからこそ、この一瞬一瞬を精一杯生きるしかない。

モノを言わず、古びた舎利殿の姿を見つめる沙織は、その姿に人生の有限性を突きつけられるような感覚を覚えた。朽ちた木材の風合い、その傷跡に刻まれた時の流れは、自分自身の未来を暗示しているかのようだった。締め切りの迫る人生という舞台で、彼女の中に宿る未完の思いは、さらに強く燃え上がっていく……。