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第2章 旅の始まり

二人で巡る円覚寺の境内は、ただの観光とは異なり、沙織にとって心の奥深くまで響く旅路となった。静寂に包まれた境内を歩くたび、風に揺れる木々の葉や苔むした石畳が、まるで彼女の揺れ動く心を映し出すかのようだった。仏殿の荘厳さや、舎利殿の歴史の重み、池に映る木々の揺らぎ。その一つひとつが沙織に語りかけるように、過去の選択や秘めた思いを浮き彫りにしていく。

「果たして、この選択は正しいのだろうか？」
彼女の胸に去来する葛藤は、風にささやく木立の音や、水面に広がるさざ波と共鳴し、自然と一体となるかのように増幅されていく。悠の無邪気な表情が時折視界に映るたび、彼の無垢な心と自身の思いとの間にある隔たりを突きつけられるようだった。

沙織の心の内で渦巻く迷いは、境内の静けさと風景に溶け込みながらも、なお鋭く存在感を放ち続けていた。悠は、沙織の内なる葛藤に気付くこともなく、軽やかな足取りで境内を進んでいく。だが沙織にとって、その旅路は静かに、そして確実に彼女自身を試し、問いただす時間だったのだ。

やがて二人は、円覚寺の境内を後にした。去り際に振り返った沙織の瞳には、風に揺れる木々や遠ざかる舎利殿が、静かに語りかけるように映っていた。「選ばなければならない。その先にあるものが何であれ、私はその果実を掴むのだ。」彼女の中でわずかに芽生えた覚悟は、再び風景に溶け込み、静寂の中へ消えていった……。