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女性のための犯され短編集
第16章 巫女は鬼に犯される(2)

 月の光が薄く山頂を照らし、遠くに見える森が彼女を呼んでいるようだった。巫女は一瞬も躊躇せず、屋敷を後にして山の斜面を駆け下りた。

 蓬霊山(ホウレイヤマ)の森は深い霧に包まれ、木々の間を縫うように走る巫女の息は白く凍てついていた。足の裏は石や枝で切り裂かれ、血がにじんでいたが、彼女は止まらなかった。

 鬼の妖気が背後から迫ってくるような錯覚に襲われながらも……ただひたすらに逃げ続ける。

(人の世へ……戻らないと)

 しかし、どれだけ走っても景色は変わらない。森の奥へ進むほどに、空間が歪んでいるような感覚が強くなった。

 木々の配置が不自然に繰り返され、月は一向に動かず、空気は重く澱んでいる。巫女は立ち止まり、錫杖(シャクジョウ)の欠片を握り潰すほど力を込めた。

(この山全体が鬼の結界に閉ざされて……抜け出せなくなっている……!?)

 絶望が彼女の心を締め付けた。

 人の世と鬼の世が交錯するこの「境界」という場所では、どれだけ逃げようとも出口はない。たのみである霊力は弱まり、結界を破る術(スベ)も見つからない──。

 疲れ果てた身体が震え、膝が地面に崩れ落ちた瞬間、遠くから不気味な笑い声が響いた。

「ヒヒヒ……」

「──!?」

 巫女が顔を上げると、霧の向こうから複数の影が現れた。

 赤く光る目、鋭い爪。異形の姿をしたモノノ怪の群れだった。

 山に棲む低級なモノノ怪たちで、人の霊力を味わい、純粋な身体を穢すことに悦びを見出す下劣な存在だ。彼女の弱った気配を嗅ぎつけ、欲望に駆られて群がってきたのだ。

「見ろよ、この女……清らかな匂いがするぜ」

「なんて美味そうな身体だ!」

 モノノ怪たちはニタニタと笑みを浮かべ、舌なめずりをしながら近づいてきた。



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