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雨が好き
第55章 告白
いつもたくさんおしゃべりする水際さんが、
今日は、静かにお酒を飲んでいた。
じっと、バーカウンターの向こうを見ている。

何か、むやみに声をかけちゃいけない気がして、
私も、なんとなく同じ方向を向いていた。

一杯目のマティーニが空になって、
二杯目が届く

オリーブを口に含んで、
また、一口

「私さ・・・ちっちゃい頃から蒼人が好きだったんだ」

ぽつり、ぽつりとお話する。
雨の日に、木の葉から滴る水のように、
水際さんの気持ちがゆっくり、ゆっくり、落ちてくる。

「私が男友達と喧嘩したりすると、
 蒼人、すっごい顔して追っかけ回してくれて、
 逆に相手、怪我させそうになって怒られて」

蒼人さんの家は、お父さんもお母さんも働いていて
兄妹二人でいることが多かったという。

「お腹空いたって言ったら、ホットケーキ作ってくれて、
 宿題わかんないって、わざと甘えて教えてもらったりもした」

とりとめもない、昔話。
ぽたり、ぽたりと、雫のように。
募る思い出が、あとから、あとから溢れてくる。
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