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雨が好き
第97章 夜桜
あの事があって、しばらくしてから学校に行かれなくなって
家にずっと閉じこもっていて
お父さんや、恵美子おばさんや、色んな人に迷惑をかけていて
ひとりで辛くて、寂しくて、
泣きたいけれでも泣くこともできなくて、

夜、お父さんが眠ってからも眠れなくて
いけないと思ったけれども家を飛び出して
宛もなく歩いていていた

誰も歩いていない町は
怖いというより
なんだか夢の中のようで
不思議な安心感があった

歩いて、歩いて、歩いて

「そして、気づいたらここにいたの」

桜の木の幹にそっと手のひらで触れる
ごつごつとしたその幹は
錯覚かもしれないけれども、
温かさを感じた

私の話に蒼人さんは、じっと耳を傾けていた

「桜の花が、きれいで
 なんだ、それを見ていたら、さみしいのが少しなくなったの」

毎年、毎年、この季節になると、私はここに来た。
ひとりで、夜
蕾が膨らみ、花弁がほころび、満開の桜が白銀灯に照らされるのを見た
風に花びらが散って、次の春にまた会う約束をするまで

「私の、秘密の場所・・・なんです」
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