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雨が好き
第97章 夜桜
突然、ぎゅっと、私は抱きしめられていた。
後ろから、強く、強く抱きしめられていた。

「蒼人・・・さん?」

私の頭に彼は顔をうずめるように抱きすくめる。
夜の桜の下
白く照らされる影の中
私は、彼に抱きしめられていた。

蒼人さんの身体は少しだけ震えていた。

「・・・ごめん・・・その・・・嬉しくて」

その言葉が私の身体に落ちて、やわらかく広がる
その温かさを抱きしめるように、私は胸の前で合わさった彼の手の上から、自分の手を重ねていた。

「もらって、くれますか?」

もらってくれますか?
私の記憶
私の想い
私のこころ

誰にも、伝えられなかった、私の世界・・・

返事はなかった。
ただ、彼は私を抱きしめる力を強くした。

私達を包むように、また、
春の風が、そよと過ぎていった。
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